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1998年11月 3日 (火)

組織人 交渉の本質

昨晩アメリカから帰ってきた。今回の出張の目的は、グロービスの一部門の日本におけるアライアンスの確立だ。守秘義務に差しさわりのない範囲で、感じたことを書いてみたい。

僕は、国際的にアライアンスを組むことが、今後の競争優位の確立に重要な役割を果たすと信じている(グロービスには、「五つの競争優位の確立」という考え方があって、その一つに国際的提携による優位の確立が挙げられている。機会があれば、その五つの競争優位の源泉をコラムで紹介してみたいとも思っている)。

グロービス・マネジメント・スクールを例にとると、教材はハーバードからきており、翻訳版と英語版双方を活用している。学位(経営学修士:MBA)は、英国の国立大学のレスター大学から授与される。また、通信教育を使って、シンガポールやニュージーランドにも受講生がいる。つまり、米国の教材と英国の学位で、主に日本人向けにグローバルにMBAの学習機会を提供している。このグローバルな考え方が、他の日本の大学院と一線を画す大きな差別化のポイントになっていると僕は信じている。

同様に、グロービスに関わるすべての事業でも、この考え方はとられている。出版部門では、海外の良質な本を翻訳して日本で出版するとともに、グロービスの本を韓国語や中国語に翻訳して、出版している。

今回は、他の部門の国際提携の案件で、海外のパートナーとの交渉に臨んだ。すでに半年以上も、先方と交渉を続けており、僕もニューヨークに2回、ロンドンとパリに1回ずつ出張している。これが、最終的な交渉になるであろうことは、双方とも理解していた。

先方の会社は、米国にニューヨークを含む3か所に拠点を持っており、ヨーロッパではロンドン、パリ、ミュンヘン、そして中東のイスラエルにも拠点を持っているグローバルな会社である。しかし、アジアには、拠点がない。数年間探してきたが、よいパートナーとよい参入戦略が見つからないようであった。グロービスとしても、海外のネットワークに自らを組み入れることのメリットは、充分に承知しており、他社に先んじてよい会社と組みたいと思っている。

これらの点では双方の利害が一致するのだが、条件面では、株式の持ち分やアジアへの将来の展開などの重要な点について合意ができずに、半年が過ぎ去っていた。その状況のなかで、僕の出張が確定して、ニューヨークに飛び立った。

マンハッタンのミッドタウンの先方の事務所で、交渉に臨むなり、冒頭にこう言われた。「僕らは、大きくてしかもグローバルな会社である。数十年も実績があり、国際的な評判も非常に高い。グロービスは、日本では名声があるかもしれないが、いまだ若くて実績も少ない。その双方が対等に話し合おうということ自体が、おかしいと思う。その立場を理解したうえで、交渉をしたいと思っている」。

僕は、こう切り返した。「僕らは小さくて、未だ日本でしか業務をしていない。設立後数年の会社で、国際的な評判は確かにない。現時点では、あなた方は大きくて、僕らは小さいことは認める。でも、僕らは、将来のビジョンと可能性を持っている。あなた方も最初は小さな会社から始めてここまで大きく創ってきたように、僕らにも同等のことができると強く信じている。その可能性をどれほど諦めて譲歩をしなければならないのかが、僕らにとってこの交渉においては非常に重要になる。したがって、僕らは会社の大小にかかわらず、僕らなりの考え方を主張させてもらう」、という具合だ。先方も企業家であるため、非常に話が早く、僕らの考え方を理解してくれた。とても、話がしやすい。

結果的には、僕らが満足できる形で、合意に達することができた。今回の出張ほど達成感に満ち溢れたものはない。非常に晴れ晴れとした。なぜ、この交渉がうまくまとまったかを自分なりに整理してみる。

①「気持ち」で負けなかったことがまず大きかったと思う。冒頭のやりとりの例のとおり、気持ちでは負けていなかったと思う。交渉の過程で、気持ちが入らなくなったら、譲歩を繰り返さなければならない。今回はそれがなかった。その姿勢を、先方も評価してくれているのだと思う。
②考えていることをはっきりと友好的に主張してきたのがよかったと思う。重要なのは、ただ単に「主張」するのではなく、「友好的な交渉」を心がけることである。そのためには、相手の立場を理解しながら、Win-Winの状況をいかにつくれるかを双方で考えることが重要になる。これは、グロービスの交渉術のコースでも学ぶことができる有効な手法である。
③そして、最後にはグロービスの評判がプラスに作用したと思う。このグロービスの評判というのは、交渉のプロセス以前の状況設定である。当然、先方もグロービスに関しては、事前に相当調べたはずである。それでも、グロービスを選んでくれたのは、最終的には、グロービスが今まで創り上げてきた「評判」があったからだと思う。これは、グロービスのスタッフ全員とグロービスを取り巻くすべての企業と人によってつくられるものであると思う。創業以来の日々の一人一人の受講生やクライアントとの一言二言のインタラクションが生み出してきた結果だと思う。決して、一朝一夕ではつくれない。一日一日の誠実な接触の積み重ねが、よい評判を生み出すのだと思う。この周りの人を大切にする気持ちは、グロービスがどんなステージに達しても、忘れてはならないことだと思う。

つまり、交渉においては、交渉術に加えて、全人格的なぶつかり合いと、今までの歴史が問われることになるのであろう。

僕は、先方の会社を心の底から尊敬している。ものすごく優秀なプロフェッショナルの集まりであり、彼らが創り上げてきた組織と実績と評判は、称賛に値する。この会社の人々と一緒にグローバルな次元で仕事ができることを考えただけでも、エクサイティングである。この提携が成就すれば、グロービスは、この分野で日本でNo.1の会社になれると思う。国際化のレベルでも僕らのアライアンス企業は、日本No.1であることがほぼ確定したことになろう。

このアライアンスでどれだけ新しいことができて、どれだけ多くの価値を社会に提供できるかを考えると、とても楽しみである。また、僕らの新たなチャレンジが始まる。とても、ワクワクすることである。

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コメント(1)

  • いつも深い共感を覚え、勇気が湧いてきます。
    大好きなフレーズがちりばめられているので、「どうも目線が下がってきた(気弱になってきた)なあ・・」と感じると何度も読み返しています。

    投稿者: 岩城照久

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