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2001年12月20日 (木)

組織人 米国ベンチャーキャピタルの失墜

出張のもう一つの目的である米国投資家回りで見えてきた米国VCの現状をコラムとして書いてみようと思う。
ニューヨークでの投資家説明会及びボストンとシカゴでの投資家訪問は、順調に終わった。

AGPファンドへの投資家合計10社に状況を説明することができた。僕らは、常にアニュアルレポートやクオーターリーレポートを投資家の方々に送っているし、逐次メイルで報告もしている。しかも投資が成功して現金化して配当を実施しているので、 僕らの状況を投資家は充分に理解されているものと思っていた。しかし、実際に訪問 して改めて認識することは、「投資家は僕らのファンドの実態を殆ど理解していなかった」という点であった。やはり、FaceToFaceで時間と場所を共有化して、しっかりと目を見ながら説明しなければ理解頂けないのだろうということを強く認識した。

幸い、僕らの投資実績は、99年ものファンドとしては、驚異的に良い内容になっている。投資家からは多少鋭い突っ込みもあったが、最終的には、「世界的にみて最もうまくいっているファンドだ」とのコメントを各投資家からもらことができた。僕は、 投資家との信頼関係構築に一定の成果を納めたと思っている。

プレゼンの後に、米国や欧州のベンチャーキャピタルに関して現状を聞くと、投資家の態度が一変した。皆一様に米国VCの投資状況とベンチャーキャピタルに対して、諦めと怒りが混じった感情をあらわにした。実績がひどすぎるのである。

僕もふと振り返ってみた。僕が、99年にパトリコフ社(現Apax)と提携して、米国や欧州のVC手法を学ぼうと思っていた当時は、「米国のVCは凄い。優秀な人材が集まっているし、これだけ多くの雇用を生み出している」、と盲目的に信じこんでいた。 ただ、時がたつにつれて実態が見えてきて、一様にマネーゲームに走っている姿を見 るにつけ、ある疑問が沸いてきた。「米国のVCの多くは、マネーゲームに走っているだけではないか?」。最終的に米国VCに対する疑問が確信に変ったのは、2000年4月頃からである。それまでは、VC投資はそれなりにうまく言っていたので、 決定的に疑うには到らなかった。たが、2000年の3月のナスダックの崩壊を境に見えてきた現状は、さんさんたるものであった。そして、今回の出張での僕の結論は、 「90年代後半の米国VCの投資手法は日本のバブル時代の不動産投資と何ら変らない」という確信を裏付けることとなった。

この期に及んでも「市場が回復すればまだまだ大丈夫」と言っている米国VCの姿勢は、市場任せの不動産投資のそれと同じである。唯一違うのは、VCは人の他人のお金を預かっているという点である。つまり、投資家が損をしてもVCはマネジメントフィーをもらい続けるので、彼らは基本的には損をしない。VCは損をしないし、今でもフィー を多く貰っているので裕福な暮らしをしている。ところが、投資家が損をしており、それが投資家の苛立ちや怒りにつながっているのである。

では、なぜ僕が日本のバブル時代と同じであると思ったかを説明しよう。

1)「瞬間投資」が多くなる(英語では、MomentumDealと言う)
インターネット関連への投資に特徴があるが、投資の審査(DueDiligence)を殆ど行わずに、瞬時に投資の意思決定をする。その背景にあるのは、右肩上がりの神話で あり、「今投資をしなければ、乗り遅れる」という儲け損なうことへの焦りの心理で ある。ベンチャーキャピタリスト達は、バリュエーション(価格)を度外視して、次 ぎのヤフーやEbayと同じ株価になることを信じきっていたのだ。日本の不動産バブルと何が違うのであろうか。

2)ハンズオンを忘れたVC:
ベンチャーキャピタリストは審査もしっかりと行わずに、投資の意志決定をするので、事業のことを知らない。当然適切なガバナンスストラクチャーを維持できないので、 起業家は好き勝手にする。VCは、起業家と一緒になって戦略を考えて、組織を一緒に創り、リクルーティングも手伝い、マーケティングやアライアンスも一緒になって やることはもうしない。いわゆるハンズオン型投資は、なりを潜めてしまう。つまり、マネジメントで価値を生み出すのではなくて、良いディールを見つけて、それで売却 することしか考えていないディ-ルメーキングで価値を生み出すベンチャーキャピタリストが横行する。

3)ファンドの規模化に走ったVC:
そしてファンドの規模を大きくして金儲けに走ってしまったのである。あるベンチャーキャピタリストが僕にVCの成功の秘訣をこっそりと教えてくれた。「なるべく投資を早く実施して、ファンドの額を大きくする。するとフィーが多くもらえ、優秀な人材を採用して、規模化ができる。早く規模化をしたものが多くのお金を得ることができ る。これがVCが勝つ秘訣だ」。本当にこれで良いのか?全く投資家の視点や起業家と一緒に創るという姿勢が感じられない。(当然、僕は全てがそうだとは思わないけど、マネーゲーム的な風潮があったことは事実だと思う)。

しかし、この”成功の秘訣”を皆が実践したことによってビリオンダラーファンドと 呼ばれる1000億円以上のファンドを抱えるVCが数多く生れることになった。彼らは、一様に2%以上のフィーをもらっていってしまうので、年間20億円以上の収入は確保されるのである。皆、ファンドの額が大きくなってもパートナーの数があまり 増えていないので、投資の件数を増やさずに1件当たりの投資額を増やすことしか考えないのである。かつては、1件あたり2、3億円の投資をしていたのが、今では平均1ベンチャーキャピタル当たり平均投資額は10-15億円になる。当然、バリュエーションも上がる。(その代わり各パートナーはお金もうけができるようになるのである)。

そして、「瞬間投資」が増え、「ハンズオンを忘れ」、「そして規模化に走った」つ けが、ある一時期にバブル崩壊という形で回ってくる。残ったのは、不良投資の残骸である。2000年に10兆円以上投資されたVCマネーに加えて、VC以外のエンジェル投資家、更にはコーポレイトVC、そしてそれらを高値で買った企業(JDSユニフェ ースの1兆円以上の償却やシスコの数千億円の償却は記憶に新しいことであろう)。更に、CLECと呼ばれている地域通信会社には、数十兆円の銀行融資及び通信危機メーカー(シスコやノーテルなど)からのベンダーローンが提供されている。ある調査会社の報告によると90年代の初頭の貯蓄機関の崩壊を上回る不良資産があると言う。真偽はわからないが、日本のバブル時代と同じ匂いがあるのは、僕の錯覚であろうか。

その中で、一つの疑問が湧き上がる。「なぜ過去にこれだけの伝説的な成功物語を生 み出した米国ベンチャーキャピタルがいとも簡単に失墜するのであろうか」。 僕は、米国ベンチャーキャピタルの歴史から検証することとした。
数多くの米国VCを僕なりに分析すると、皆以下の共通点を持っている。

-伝説的なVCは、70年代初頭から生まれ出した。その当時のベンチャ--キャピタリストの年齢は、平均35歳前後であろう。
-そして小さいファンドから始めた。だいたい、5億円から多くても20億円程度である。
-殆どがベンチャーか或いは経営の経験がある人が中心となって組成された。
-皆一様に「米国の新たな産業を創る」と言う使命感を持っていた。

そして、小さいながらも、失敗を繰り返しノウハウを蓄積して、成功を繰り返したVC のみが生き残っていった。彼らは、様々な経済の上がり下がりを経験した百戦錬磨で ある。そのVCは投資家の信頼を勝ち取っていき、結果的に徐々にファンドを大き くして、90年ごろには各ファンドとも100-200億円ぐらいの規模になる。9 0年代中ごろには、伝説的な投資をしてきたキャピタリストも60歳前後になり引退 して後身に譲ることになる。その殆どがMBAホールダーを中心とした分析的な投資手 法しかしらない人々である。そこから90年代の米国バブルが始まり、上述の通りの ファンドの規模化が行われ急激に事業未経験のMBAホールダーがVCに流れ込み、ファ ンドの規模化や金儲け主義が幅をきかせることになった。

VC投資ほど知恵を伝授することが難しいものは無い。彼らの殆どは、右肩上がりの時代にしか投資をしていないので、短い期間に小さな成功体験を持ってしまい、投資を簡単に考えてしまう。賢そうに、業界分析はできても、会社を創り伸ばすことは正解 が無い世界なので、なかなか伝授できない。

そうこうするうちに、ベンチャーに流れ込むお金の額が多くなり、一つ一つのファンドの規模が大きくなる。かつてはクラブディ-ル的に一緒に投資をしていたのが、共 同出資がだんだん減り、各ファンドが一様に同じようなディ-ルを追いかけはじめる。 ベンチャー企業間で過当競争が発生して、需要と供給の関係で、バブルが生れ、ある 一点をきっかけに崩壊するのである。そして、最終的には数多くの失敗事例が発生す るに到った(これはビジネススクールでも有名な80年代のディスクドライブでのVC の投資失敗事例をもっと広範なセクターで実施されたようなものである)。
上記の通りの仮説を持って今回の出張でヒアリングを重ねることにした。その中で、 僕はある伝説のベンチャーキャピタリストとお話をする機会を得た。 彼は、こう言った。

「96年から2000年までに1000社の会社が毎年生れたとしよう。その中で2%だけが未だに単独でか或いは買収された後も事業が存続している。たったの2%で ある。その中で黒字になったのは、たったの1社だけである。96年から2000年 の間に投資をした数千社の中で成功して黒字になったのはイーベイだけである。アマ ゾンもヤフーも未だ投資家からサポートを得てやっと存続している。1000社のう ち2%。そして、1社だけである」。

「なぜ、そのような状況になったのだ。そのような投資を止められなかったのか?」 と問い詰めた。

彼は、答えた。「あの時代は、クレイジーであった。誰も甘い投資をとめられなかった。新しく入ったパートナーは小さい成功体験をしてしまい、VC投資を簡単に受け入 れすぎた。いくら強く言っても、新しいパートナーは誰も私の言うことを聞くような 状況ではなかった」。

その表情がとても寂しげだったのが、印象的であった。

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