起業家の風景(エッセイ) 起業家の風景 一覧へ

2003年6月22日 (日)

日本人・アジア人・地球人 韓国大統領との面談

ソウル出発直前になって、「韓国大統領とのアポがとれた」、とのメールが届いた。

ダボス会議を主催する(World Economic Forum:WEF)が、新しいアジアのリーダーを集めて行うリトリート(合宿研修)をソウルで行うこととなり、僕も選ばれたのである。そして、そのリトリートの一環として、韓国の大統領にお会いできることになったのである。

6月の初頭、盧武鉉(ノムヒョン)大統領が、訪日された際、過去の歴史には一切ふれずに未来志向の姿勢を保ちつづけてきたことに、僕は好感を持っていた。一方、盧大統領はその未来志向の姿勢によって、帰国後マスコミや野党から批判されていることを知ることになった。

盧大統領にお会いできると知ったその瞬間に一つの決意をした。盧大統領に、未来志向の姿勢をとっていることに日本人として敬意を表し、その姿勢を維持して頂くようにお願いしよう、と思った。なぜならば、その未来志向の姿勢が日韓関係にはとても重要だと認識していたからだ。

僕と韓国との関係は、1996年に遡る。まだ金泳三(キムヨムサム)政権の時代だ。YEO(若手の起業家の会)を韓国につくるべく日本から単身韓国に出張した時以来だ。韓国では反日感情がひどいと聞いていたが、それほど嫌な思いはしなかった。韓国のYEOも順調に立ち上がり、訪韓のたびごとに、ルームサロンというカラオケとクラブとをあわせた場所に行き、爆弾酒やトルネード酒などを楽しんだ。

そうこうするうちに、韓国の起業家と交流も深まった。若手企業家とも歴史に関して議論したりもした。彼らは、基本的には、日本のことを嫌っていないということも理解できた。


日本の事業展開の次は、韓国だと以前から思ったいたので、グロービスも韓国への進出を検討した。1997年には、韓国側のパートナーも固まり、さあこれからスタートしようというときに韓国の経済危機が起こり、IMFの管理下におかれるようになり、韓国進出を断念したこともあった。また、2000年には、Zionexという会社にもエンジェルとして投資をしており、取締役会に参加するために年に3回程度は必ずソウルに来ていた。

1996年から今までに10回以上韓国に来ている計算になる。ソウル以外には、釜山、慶州、済州島や、韓国の温泉地にも行った。家族も連れて2〜3回来ている。仲のいい友達もいっぱいでき、訪韓するといつも歓待された。食事も美味しい、文化レベルも高い、女性も綺麗、僕にとっては好きな国の一つであった。

96年から来つづけている人間として感じるのは、韓国人の対日感情の変化の著しさである。ここ最近は、明らかに親日的になっている。僕なりにその要因を分析してみた。
1) 政治: 反日的考えの金泳三大統領が退任して、親日的な金大中(キムデジュン)大統領に移った。
2) 経済・ビジネス: 韓国が経済危機に苦しんでいると時に、日本はとても親切に接していた。
3) 文化: 当然、日本の文化はかなり流入している。ただ、何にもまして、一番大きい要素がサッカーだったと思う。

フランス予選で見せた、サッカーを通してのフレンドシップ。そしてワールドカップの共催。韓国チームが勝ち進むことに日本が声援をしたこともあり、今や韓国の若者は親日家になりつつある。

今回ソウルに来て僕がびっくりした事例を二つ紹介しよう。

一つが、青瓦台(大統領公邸)に向かうバスの中でたまたま一緒になった35才の起業家CEOの話だ。彼は、韓国で一番大きなインターネットドメイン登録会社を経営しているらしい。彼は、一言僕に言った。「僕は、WorldCupまでは、日本人のことを嫌っていた(Hateということばを使っていた)が、W杯後は、 好き(Like)になったと」、と。そう簡単に感情って変わるものかと疑わしく思ったりもしたが、どうもそれが本音のようだ。

もう一つが、韓国の政治家との話だ。夜に彼と一緒に飲んでいたら、彼がおもむろに言い出した。「僕は、サカモトリョーマを尊敬(respect)している」、と。僕は、ビックリした。僕は、過去に韓国人が、日本人の歴史上の人物を尊敬するなどと言うことを聞いたことが無かった。耳を疑った。だが、彼は、続けた。「リョ-マガイクを詠んで感動した。僕は、韓国のサカモトリョーマになる」、と。僕もやっと状況がわかってきたのが、どうも最近、司馬遼太郎の「竜馬が行く」が翻訳されて静かなブームになっているらしい。飲み会の場での会話だったので、僕は、彼のことを、「韓国の坂本竜馬」と経緯を表して呼び、乾杯した。彼もちょっと照れくさそうにしながらも、上機嫌で飲み明かした。

つまり、明らかに変わっていたのだ。僕は、その韓国人の意識の変化の状況を知っていたから、韓国の大統領にお会いする際には、その未来志向の姿勢に日本人として謝意を示したかった。そしてマスコミの批判に臆することなく、そのままの姿勢を続けて頂きたかった。

お会いする前から、色々な場面を想定した。ダボス会議なので、参加者は、僕一人ではない。50名ぐらいだろう。また、大統領も忙しい。長くても30分だろう。となるとチャンスは1回だ。頭の中で、言うべきことを整理して、喋るタイミングも考えたりした。

白バイに先導されたバスが青瓦台のゲートを抜けていった。緊張も大きくなってきた。以前、観光では来たことがあったが、青瓦台の中に足を踏み入れたことは当然無い。控え室に通された。そして、韓国大統領と会う場所に誘導された。そこには、10個程テーブルがあり、僕は前の方のテーブルに自分の名前を見つけ、そこのテーブル席に座った。テーブルの上には、お茶菓子とフルーツが置いてあった。

同じテーブルに座っている人々に自己紹介をした。ふとみると、右隣の隣が空席である。「誰が座るの?」、と右隣の韓国の方に質問したら、何と、何と、韓国の大統領が座るのだという。ビックリした。つまり、大統領はすぐ横に座るのだ。隣の韓国の方がせわしそうにメモに目を通しているのに気がつきながらも、一つ質問した。「僕は、どうしても韓国の大統領に謝意を表明したい。どう思うか。」、その内容を説明して聞いてみた。彼は、「いいんじゃないの」と緊張しながらもにっこりと笑った。

ほどなくして、盧大統領が入場してきた。皆起立で出迎えた。大統領は、軽い歩調で隣の隣に来て、皆同時に着席した。そして、僕の隣に座っていた韓国の方が立ち上がり、出席者を代表して喋り始めた。本日来てくれた事に謝意を示していた。彼が、どうして緊張していてメモに目を通していたのかということがよくわかり、話し掛けてしまったことをちょっと申し訳なく思った。その後、大統領の逆の隣に座っていたWEFのディレクターが立上がりWEFを代表して挨拶をした。通訳が入るので、もう10分ほどたっていた。そして歓談の時間が始まった。今、6時10分だ。恐らく暫くすると大統領が挨拶をするに違いない、と思い、話し掛けようとタイミングを見計らった。

一瞬の合間を縫って、僕は大統領に、「Mr.President」と呼びかけて、語り始めた。通訳の人がビックリして、僕の隣に移動して通訳を始めた。僕は、以下趣旨のことを夢中になって喋りだした。

「先日は日本に来ていただきありがとうございます。ここにいる日本人を代表してお礼を申し上げたい。また、日本に来られた際に、未来志向の姿勢で臨まれたことに敬意を表したい」。

ここで通訳が入ったので、ゆっくりと深呼吸をした。

「僕は、過去に韓国に10回以上来ている。僕は、韓国のことが好きである。今後の世界情勢を考えると日韓関係は、さらに重要度をますことになると思う。ワールドカップの後から日本と韓国は、本当に友達になったと思う。僕は、そのことがとても嬉しい。今後とも両国の良い関係が続くことを希望している」。

そして、「コムサムニダ」と結んだ。

韓国大統領は、とても嬉しそうにされて、韓国語でお答え頂いた。通訳は以下伝えてくれた。「今後とも良い関係がつづくこととしたい。あなたも引き続きグッドワークをしつづけるように、と」。僕は、意味がよく理解できなかったが、恐らく「引き続き頑張り続けなさい」という励ましの言葉ではなかったかと思う。

そして、周囲を見渡すと、韓国の人々が一様に満足されていることを感じとられた。暫くして、大統領が立ち上がり、スピーチを始めた。驚くことに一切メモが無いままに、思っていることを話し始めた。

その中でも、日本の占領下のことに触れながらも、これからは未来志向で行くのだ、ということも述べられていた。そして、スピーチも終わり、退席するときには、わざわざ近くまで来て頂き、握手をして退席された。そして、その後記念写真をとるときにも戻ってこられて、そのまま外出された。

僕は、正しいと思うことができたことに満足してバスに乗り、ホテルに向かった。バスの中では、たまたま隣が空席になったので、大統領との面談を振り返りながら、今後のアジアのことを考えつづけた。そして、翌日から正式な、ニューアジアンリーダー(NAL)のリトリートが始まることになる。

030622_1.jpg

トラックバック(0)

この記事のトラックバックURL :
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/45572/48022781

コメント(0)

コメントを書く

お名前
メールアドレス 本サイト上には掲載しません。
URL
コメント本文(必須
コメントは管理者が公開するまで表示されません。
不適切な発言は、管理者の判断において削除することがあります。

はじめに

「起業家の風景/冒言」一覧

起業家の風景 最新コラム

起業家の冒言 最新コラム

メールマガジン配信

著書

グロービス 事業紹介