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2004年6月14日 (月)

組織人 二泊三日の香港・上海出張

「世界を股にかけての活躍ですね」と言われるが、本人は「活躍」というよりも「奮闘」という意識の方が強い。
「世界」という大海原で、一所懸命にもがいている感じだ。

起業したての12年前、「日本」という大海で、一所懸命ネットワークを築き、顧客を開拓し、ブランドを構築し、信用をつくってきた。
その同じようなプロセスを「世界」というステージでやろうとして、今もがいているのである。

今回、香港と上海とで各一泊。全行程二都市を二泊三日で巡る出張となった。
香港では、投資家3社に会い、上海ではコンファレンスでスピーチをすることになっている。
まだ中東への出張の疲れがとれていないが、ノンストップで前へ前へと進むしかない。

投資家とのミーティングとは、言ってみれば営業活動だ。
グロービスのファンドを、一口5億円で買ってくれないか、と営業をする。商品は目に見えないものなので、投資家も買うかどうかの判断に迷う。しかも、高額且つリスクを伴う投資だ。
投資の判断基準は、過去の実績、日本というマーケットへの可能性、グロービスという会社のブランドとネットワーク、そして僕を含め経営陣への信用などである。投資家は、普段日本にいないので、詳しくわかりやすく説明する必要がある。50ページ程のプレゼン資料を用意し、グロービスのファンドを説明する。更に、日本の経済状況、技術状況、社会的環境、株式市場やM&Aの状況などのマクロ的要因も説明する。ミーティングは、1時間から1時間半だ。
このような投資家向けの営業は、トップが直接行わなければ、投資家は納得しない。
従い、僕自身が、海外に足繁く通い、投資家を訪問することになる。

プレゼン資料を数部用意して、同じ説明を何度も何度も繰り返すことになる。
たまに、飽き飽きすることもある。だが、根っからセールス好きなのか、常に前向きに、面白さを見出して楽しむようにしている。

最近は、グロービスの投資実績が良好なのと、信用力が上がったこともあり、営業活動も楽になってきた。
ありがたいことだ。
海外出張も、投資家訪問をメインにするよりも、他の用事(主にスピーチやコンファレンスへの参加)がメインとなり、それに合わせ近くの投資家に挨拶に行くというスタンスに変わりつつある。
今回も、ATRE(アジアン・テクノロジー・ラウンドテーブル・エグジビッション)という会合で講演を頼まれた。場所は上海である。

どうせならば香港まで足を伸ばし、投資家に会いに行こうと決め、香港・上海の二泊三日の出張となった。
今、香港で2社目の訪問が終わり、時間に余裕ができたのでカフェでパソコンを開き、ここまでのコラムを一気に書き終えた。

最近、海外出張に出ると、コラムを書く頻度が上がる。1人で出張することが多いので、寂しさを紛らわすため、コラムを通して読者と対話することで、心を和ませているように思う。
(ここまで書いたところで、約束の10分前になった。3社目の投資家とのミーティングに向かうことにする。続きは上海から書くことにしよう)。

3社目の投資家訪問の後、電車で空港へ向かい、中国東方航空で上海に入った。
空港のイミグレーションで偶然軽井沢の山小屋の隣人にばったり会った。世間は狭い。
宿泊するホテルの窓からは、建設中のビルが目に入る。
一時期程ではないが、急ピッチで成長を遂げていることがよくわかる。

翌朝から、ATREの会合が始まった。
この会合の主催者は、米国のRed Herring誌を買収したダサール社だ。
先のシアトルで開かれたビル・ゲイツ氏を招いた会合や、以前スペインのセビリアで開かれたETREも同じ会社が運営している。

ダサール社の創業者は、アレックス・ビーウィ氏といい、ジャマイカ系のフランス人である。ユニークな人だ。
このATREやETREの特徴は、スピーチ後のアレックス氏の厳しい突っ込みだ。
誰かれ構わずガンガンに突っ込み、聴衆がそのやりとりを聞き逃さないよう前傾姿勢で熱心に聞いている。
その突っ込みは、当然スピーカーである僕にも向けられることになった。

今回、初日の午前中にキーノート・スナップショットという、かなり参加者の出席率が高い、「格」が高い時間帯が用意されていた。

参加要請があった際、アレックス氏に、「キーノート・スピーチじゃないと行かないよ」、と粘り強く交渉したのが良かったのであろう。

良い時間をもらったので、日本に対する正しい理解をしてもらう絶好のチャンスだ。そう思い、気合が入った。
僕の順番になった。しかし、時間が押していたせいか、スピーチを省いて、すぐQ&Aに入ろうとしていた。
しかし、僕はそこで、スピーチすることを主張した。海外では、積極性が必要だ。せっかくグロービスや日本をアピールする機会だ。

予定していた時間よりは、短くなったが、27カ国から参加している約200名程の聴衆に語りかけ始めた。

スピーチ終了後、アレックス氏の突っ込みが始まった。以下のように畳み込むように質問してくる。
「なぜ日本のVCの年間投資額は、そんなに低いのか。なぜ海外のVCファームは撤退していくのだ。なぜ、日本にはベンチャーが育たないのか?」
「中国には、日本以上のVC資金が集まっている。なぜ日本じゃなくて中国なんだ」
「日本では、成功者を尊重しない文化があるようだ。金儲けして何が悪い。カリフォルニアでは成功者は認められるのになぜだ」
「日本は、変化すると言っているが全然変化してないじゃないか。中国と日本はどうなるのか?」
「もしも今、ゼロからビジネスをするとしたら何をするのか?今は、バブルが無いが、どこにチャンスがあるのか?」
僕が答えている最中にも質問が割って入ってくる。

ただ、僕は、これらの質問には、慣れたものなので、比較的冷静に対応することができた。
「日本はアメリカより3-4年遅れていると考えられていて、海外のVCは、米国で成功したモデルをそのまま持ってきた。そうすれば成功すると思われていた。ところが、日本は米国より遅れているのではなく、そもそも産業構造や経営環境が全く違っているのだ。違いを認識せずに米国の投資スタイルを押し付けようとしたので失敗し、撤退した。ところが撤退する際には理由が必要なので、‘日本は起業家が育たない’‘経営陣が集まらない’‘市場が未成熟’など、日本を悪者にした。その結果、日本のVCにお金が集まりにくくなった」。

「日本の変化の兆しは、1997年頃から見え始めた。それがここに来て大きなうねりとなりつつある。97年に山一証券が自主廃業して、大手銀行の破綻が始まったからである。この事をきっかけに、若者の終身雇用体系に対する意識は崩壊した。なぜならば、会社に忠誠心を持っても、倒産してしまったら、社員が損をするばかりである。それならば、自らの能力を高め、自らがキャリアを切り拓いて行こう、という時代に入り始めた」。

「そして、現時点では、若者を中心としてベンチャーが数多く起こっている。僕らの投資先には、技術者がソニーや松下などの大企業を辞め、起業した会社がいくつかある。これは1997年以前では、全く見られなかった現象である。そして、株式市場は活況だ。現時点でのVCの投資環境は、非常に良くなっている。ただ、欧米の投資家やマスコミは、雰囲気やイメージで判断してしまう傾向がある。今は、中国やインドへの投資がトレンディーなので、そちらに意識が向かってしまう。ただ、それはあくまでも流行である。そういった流行を追う方には、「どうぞご勝手に」、と言いたい。その分、僕らは、競争が少ない良い環境を享受できることになる」。

「日本は成功者を尊重しない。などということは無い。ただ、成功者のお金の使い方をしっかりと見ているのだと思う。儲けたお金を綺麗に品良く使える人間は尊敬され、下品に使う人間は蔑まされる。日本には、そうした人格的な調和を重んじる文化があるので、控えめな自己主張をするほうが評価される。それはそれで良い側面だと思う。何も米国流に物質的になる必要も無い」。

「長い目で見ると日本は、近代の中で3回目の変動期に入っている。最初の変動期が明治維新、次が戦後、そして今が3回目である。日本を見ていると、安定期には大きな変化が見られない。江戸や明治、昭和の安定期には、あまり大きな変化は無かったと思う。ただ、変化が始まると激動する。今がその時代だ。バブル時代は、知性が無くても勇気さえあれば、簡単に金儲けができた。そういう意味ではあまりいい時代ではなかった。今は、勇気と知性と国際的センスが必要となる。今のこの時代は、僕らにとっては絶好のチャンスだ」。

「日本は、これから数年かけて更に変化していくと思う。その中心的存在は、今の30代から40代前半の世代だ。この世代が中心となり、能力のある人間が頭角をあらわし、そして社会・経済環境を変革して行くことになると思う。そして、2010年頃までに、日本、中国、韓国などと共に経済的にも統合した経済システムが出来るのではないかと思う。その時が楽しみだ」。

アレックス氏が捲し立てるように質問したので、それにつられるように早口で答えた。
うまく伝わったかどうか不安だったが、出来栄えはまぁまぁだったと思う。
大体、スピーチ後、名刺交換にくる人の勢いで良し悪しがわかる。

今回は、多数の参加者と名刺交換出来たので、結構評判は良かった。と言えると思う。
充実感と虚脱感とが入り混じった何ともいえない達成感を胸に部屋に戻り、メールチェック、パッキングをしてから、30分ほど会場に戻り、ランチをしてから、ホテルを出た。

前回の上海の視察ツアーで体感出来なかったリニアモーターカーに乗るべく、駅に向かった。10分程待ってから乗り込んだ。入口ドアの上には、時間と時速が表示されるようになっている。

発進した、100キロ越え、200キロを越えた、2分前後で300キロに突入。未知の世界に入った気分だ。
3分後には、400キロを越えた。横揺れが激しくなってきた。3分超で420キロの定常状態に入った。
419キロや421キロと多少ぶれながらも、速度を保っていた。

車窓から、上海の町並みは消え、空き地が広がっていた。その先には、海が見え、タンカーが何隻か見えた。
日本では、明治維新後、新生政府が、変化を意識させるために、蒸気機関車を新橋-横浜間に走らせたのと同じ効果を、中国政府は狙っているのだろうか、と考えているうちに、リニアモーターカーは、減速を始めた。
そして7分強で空港に着いた。車では40分以上かかるところをたったの7分強である。驚きだ。
でも、たった7分の乗車なのに、体がだるい。電磁場の影響なのだろうか・・。

このコラムでは、全てをポジティブに見ると決めているが、日本政府の政策に関しては、言いたいことが沢山ある。
その1つがリニアモーターカーだ。どれだけのお金をつぎ込んだかわからないが、いまだに実用化に至っていない。
一方、中国では海外の技術を導入したとはいえ、早くも実用化している。政策に関わる人には、どんどん正論を展開してもらい、旧弊を脱して、更に日本を活性化させて欲しいものだ。
とちょっと憤りながら、パソコンを開き、機内でコラムを書いている。

飛行機の中でコラムを書き終わると、到着後出張報告を書かなくて済むのだ。(実は、コラムを出張報告にも代用させてもらっている)

ヘッドホンからは、ウラジミール(アシュケナージ)演奏のチャイコフスキー「四季」の優しい調べが流れている。
もうそろそろ、日本に到着する。
フライトアテンダントにせかされてパソコンを閉じることにした。

日本に向かう機中にて
堀義人

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コメント(6)

  • 時代の先駆者としての堀さんの刺激的な御意見をいつも楽しみにして、このコラムを読ませて頂いております。
    特に、堀さんの理想が個々の企業レベルの創造と変革にとどまらず、日本経済全体の復活を願われている点にとても感動しました。『ポーター教授とのディベート』や『日はまた昇る』はとてもすばらしかったですし、今回のコラム『香港/上海出張』でも、日本の強さを的確に説明されている点には感動しました。私も一企業人として日本経済の強さを信じ、日本経済全体の復活を望んでおります。

    しかしながら、世界経済は変化のスピードが速く、日本もこのままでは個々の企業努力の限界を超えた状況になるのではないかと思い、今回お便りさせて頂きました。

    御存知のように2006年度より、外国企業による株式交換によるMAが認められます。これは日本企業に非常に大きなインパクトを及ぼします。海外からの投資拡大というレベルを超え、東芝や松下あるいは富士通といった日本の英知とも言える企業が簡単に外国資本に買収されてしまう可能性があるからです。理由はその時価総額の差です。東芝や富士通の時価総額はGEの約1/20以下です(東京三菱でさえシティーコープの約1/6です)。GEは東芝の既存株主に自社株を1/20与えるだけで東芝を買収できる訳です(外国企業は金庫株として自社株を多くもっています)。これは欧米では日常茶飯事で行われているMAです。日本の企業文化にはそぐいませんが、そうなると思います。

    これを防ぐには、日本の各企業が収益性を高め、株価を高め、そして日本経済を早急に回復させるしかないのですが、時間が待ってくれません。ではどうするか。やはり日本経済全体を早急に回復させるしか手段はないと思います。では、どうやって2006年までに日本企業を外国企業からの買収に耐えうるだけの高収益企業に変身させるか(そして高株価を実現するか)。

    現在、日本企業の株価が低いのは(当然ですが)フローが弱くストックもしっかりしていないからです。しかし日本企業には世界トップレベルの競争力と技術力があります。すなわち、ここからが私のポイントですが、過小評価されている日本経済と日本企業を名目タームで元に戻してやることが唯一の解決策だと思います。そのためには、これまでのような有効需要の創出だとか減税等は必要ない、むしろ市場原理を働くようにしてやるだけで解決できます。
    長くなりましたが、決して難しいことを言うつもりはありません。そして、もし、堀さん御自身が納得して頂けるなら、政策レベルの方たちへの提言をして頂けないでしょうか。日本経済全体の復活を切に願うものです。

    堀様の堂々としたプレゼンテーションは投資家をも圧巻してしまうのだろうと思われます。更に、実際に堀様にお会いされて「誠実さ」「人柄の良さ」が空気として伝わるのでしょう。私もお話をさせていただいたときに感じました。

    投稿者:

  • メールありがとうございます。全くごもっともですね。(^^)このコメントを、掲載することで、多くの人の目に触れることができると思います。またの機会に会いましょう。

    投稿者: 堀義人

  • 最近私は一従業員として、「会社を良くする」とはどんなことなのかということを考えます。外部的な評価としては、
    1. 経営状態が安定し
    2. 業績が上昇
    3. 株価が高い水準で推移している状態
    という状態が「良い会社」であるのだと考えます。ただ外部の評価として「良い会社」が従業員にとって「良い会社」であるのかということを考えると私は疑問を感じることが多いです。

    そもそも「良い会社」とはどういう会社なのでしょう。会社に勤めている人が「居心地が良い」なのか、それともお互いの従業員が常に競争をし研鑽をするのが「良い会社」なのか。その他様々な要因はございますが、一長一短なのではないかと思います。

    上述の内容を踏まえ、では「会社を良くする」ということは、どういうことなのかというと、一般的に言われる「新しい考え、新しいシステムを導入することによって効率的に仕事を進められるようにすること」が「会社を良くする」こととは私は違うのではないかと思いました。絶対的な評価として「良い会社」というものは何かと言う明確な定義は無いのですが経営者と従業員との間に信頼関係が成立している状態を指すのだと私は考えます。
    コーポレートガバナンスは、従業員を拘束する手段として用いる手法ではなく経営者のポリシーを従業員が共感できる状態にすることを第1目的としていると私は考えます。

    昨今の「コーポレートガバナンス」「コンプライアンス」の手法を拝見させていただいて方向性を明確にできない企業の取締役が多いのではないかと思います。社内の昇進競争に勝ち残ったご褒美が「会社の役員」であるという認識から「井の中の蛙」状態になっている会社が多いような気がします。

    適切な例では無いかもしれませんが結果として三菱自動車の隠蔽体質も、そのような状況から生まれてきたのではないかと(外資を資本として入れることによって変革を目指したことは、評価すべきだと思いますが)私は考えます。

    投稿者:

  • コメントありがとうございます。今後とも、よろしくお願いします。m(__)m

    投稿者: 堀義人

  • いつも「起業家の風景」を楽しみに拝読させていただいております。今回のコラムにあるアレックス氏の質問に対する堀様の回答が非常に示唆に富んでおり、私が就職活動の時に感じた違和感に対する回答がいただけたように感じました。

    私はヘッドハンティング会社を通していくつかのVCとコンタクトをとらせていただいたのですが、その時にどうも自分が考えているVCと、VCの方から実際に伺う話のギャップが非常に大きく、結局VCには就職しませんでした(その時はヘッドハンターからグロービス様への紹介はなく、話を伺えませんでした。ですからこの後、私が記載する内容には当然グロービス様は入っておりません)。

    私はベンチャー企業のサポーター的な役割としてVCを第一希望として就職活動をしていたのですが、VCの方々とのインタビューではFinanceの話ばかりが中心で、投資家というよりも「投資屋」的な印象を受けてしまいました。今回のコラムから、必ずしも日本のVCはベンチャーを相手にした「投資屋」ではなくて、日本のモデルにあわせたVCがほとんどなく、結果として「投資屋」的な活動が中心になっている、ということなのかな。と理解しました。

    私のこの解釈が正しいかどうかわかりませんが、就職活動の時に感じた違和感に自分なりの回答が堀様のコラムを参考に出せたのかなと考えております。

    日本のモデルにあったVCが何故まだまだ少ないのかという疑問に、歯がゆく思いますが、そういうVCが今後増えれば日本はさらに世界に誇れる国になっていくのだろうと思いました。

    投稿者:

  • コメントありがとう。今後とも頑張ってコラムを書きつづけます。

    投稿者: 堀義人

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