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2005年3月 2日 (水)

組織人 高野山で学ぶ経営

ダボスから帰国後、慌しい日々を過ごしているうちに三週間ほど経ってしまった。

その間、色んなことがあった。ダボスから一日早く帰国して動き回った、「税制改正」との闘い、(参照コラム「ダボス会議での憂鬱」グロービスの経営幹部による経営合宿、さらにはソウル出張など。そのバタバタの中で、最も印象に残っているのが、帰国の翌週、グロービス・マネジメント・スクール(GMS)の受講生と一緒に登った高野山での出来事だ。

僕は、3年連続で高野山に登っている。一昨年は、ネミック・ラムダ社の創業者である斑目力曠氏と2人っきりであった。昨年は、斑目氏と受講生30名程度と一緒に登った。そして今年は、斑目氏が風邪のため残念ながら急遽キャンセルとなったが、昨年同様に30名ほどの受講生が、東京・名古屋・大阪から集い、皆で高野山に登った。「なぜ斑目さんで、なぜ受講生と?」や「なぜ高野山?」など疑問に思われると思う。

先ずは、「なぜ斑目さんで、なぜ受講生と?」を説明しよう。僕が講師として教えている「企業家リーダーシップ」のクラスでは、ケースの題材となる経営者をゲスト・スピーカーとしてお招きし、経営者の哲学や経営理念を受講生に語ってもらうようにしている。このコースの4回目のクラスでは、ネミック・ラムダ社の経営哲学を題材とするケースをもとに、創業者の斑目力曠氏にゲストスピーカーとして参加していただいているのだ。ちなみに、斑目氏には毎年3回、東京、大阪、そして軽井沢の夏合宿に、ゲストスピーカーとしてご参加頂いている。近々、名古屋でも「企業家リーダーシップ」のコースを開講する予定なので、名古屋でもお願いすることになる。本当に頭が下がる。

そして「なぜ高野山?」というと、実は、斑目氏は密教のお坊さんで、ハイテク・ベンチャーを始める前は、高野山大学の大学院まで行かれていた僧侶なのである。つまり、斑目氏は僧侶から転身してベンチャー起業家になった方なのだ。そう聞くと、ちょっととっつきにくい感覚を覚えるかもしれないが、実際はとても気さくな方だ。自称「なまくさ坊主」とのことだが、確かに、お酒は飲むしタバコも吸うしで、実.に人間くさく、魅力的だ。そして、そのチャーミングな斑目氏が創ったネミック・ラムダ社の経営には、僧侶のバックグランドからか密教思想が色濃く反映されている。そこで、そのルーツを辿ろうということで、「密教が育まれた地である高野山に登ろう」、ということになったのだ。

数年前から、「斑目さんと一緒に高野山に登ってみたい」、と思っていたのだが、なかなかチャンスがこない。やっとのことで、スケジュールを決定したが、最初は斑目氏のご都合でキャンセルとなり、二度目は僕に予定が入ってしまい、2回も計画倒れに終わってしまった。

それでもめげずに、三回目の計画を立て、やっとのことで念願であった高野山ツアーの計画が実行されたのである。でも、やっと高野山に登れたのが厳寒の2月だった。理由は、大阪開講の「企業家リーダーシップ」のクラスは、毎年、なぜだか1月から3月に開講する。斑目氏にご登場いただくのは4回目のクラスなので、2月に大阪に来て頂く事になる。斑目氏に大阪まで来ていただいたその足で、高野山まで登ることにしているので、必然的に高野山が一番寒い時期になってしまう。いや、斑目氏が言うには「寒い」ではなく「痛い」のである。それだけ、寒い中での高野山ツアーとなるのだ。

最初に二人で登った高野山はとても想い出深いものだった。土曜日の朝、難波の南海電鉄の改札前で待ち合わせして、特急「高野」に乗車した。そして、電車の中で斑目氏が持参されたノート型のパソコンを手渡された。そこには、パワー・ポイントで百数十ページにわたる色とりどりのスライドが入っており、密教思想がわかりやすくまとめられていた。僕はそのパソコンにまとめられたパワーポイントをクリックしながらめくり、わからない部分があると隣にいる斑目師匠に、「これはどういう意味ですか?」と質問をする。それに対して、自称「なまぐさ坊主」の斑目師匠は、眠たそうな目を半分開けながら、親切に教えてくれた。

特急「高野」が極楽橋(ごくらくばし)というすごい名前の駅に到着し、ケーブルカーに移動した。そして数分後には、高野山の頂上に到着した。難波から約2時間ほどだ。駅を出たら、袈裟を着た宿坊の住職が待っておられた。住職直々でのお迎えだ。斑目氏が住職に丁重に挨拶をされて、車に乗り込み、宿坊「西室院」へ向かった。西室院は、弘法大師が、中院・東室・北室・西室の四室を設けられた山内寺院の最初とされているものらしい。住職のおかみさんが作って下さった昼食を頂いた後に、住込みの高野山大学の学生のガイドで、一の橋から奥の院まで歩いて観光した。途中で、織田信長のお墓などに参拝した。

その後、金剛峯寺で皇室の方々がお泊りになる場所を見て、斑目氏の母校である高野山大学を訪問し、近くの本屋さんに行き、密教関係の本を何冊か購入した。そして、宿坊に戻り一風呂浴びた後に、おかみさんの手料理の精進料理を、住職と斑目氏とおかみさんと四人で楽しんだ。ビールが出てきたときはビックリしたが、どうも宿坊ではビールはOKらしい。

冬は季節はずれなのか、宿泊客は僕ら以外に、一組の中年夫婦のみであった。そのせいか、住職もおかみさんものんびりしていて、斑目氏との昔話に花を咲かせていた。斑目氏と住職とは、学生時代からのお知合いのようだ。そして、話題が西室院の襖や欄間に向かった。「あの欄間が元禄時代で、襖が桃山時代だ。やはり、桃山時代の襖は、豪華絢爛であった」、などの会話を聞くと、数百年があっという間にタイムトリップしたような感覚になる。

翌朝、朝5時30分過ぎに住込みの学生が起こしに来てくれた。朝6時から理趣(りしゅ)経を唱えながらのお勤めに参加するためだ。コートを着込んだまま、寒い本堂に向かい、30分ほどお勤めをした。その後、住職にお礼をしたあとに、7時過ぎのケーブルカーに乗り、高野山を下山した。特急「高野」を経て、心斎橋にある大阪校に向かい、朝10時からの「企業家リーダーシップ」のクラスに臨んだ。斑目氏がゲストスピーカーのネミックラムダ社のケースである。クラスの中で、高野山に行ってきた話をちょっと自慢げに披露すると、受講生からは「いいな〜、僕らも(私ら)も行きたい」ということになった。その結果、翌年からは、受講生・修了生の希望者を募って、一緒に登ることになったのである。

これを、僕らは、「斑目氏と行く、冬の高野山の旅」と呼んでいる。旅と言っても、観光目的ではなく、グロービスらしく学びが伴うものである。昨年は、陳 舜臣氏の著書『曼陀羅の人-空海求法伝-』を読み、斑目師匠とディスカッションをしながら、弘法大師空海の人となりに迫った。今年は、司馬遼太郎の『空海の風景』を読んで読書会を行った(読書会に関しては別のコラムで触れてみたいと思う)。

「歴史上の人物で好きな人を3人上げてみなさい」、と言われたら、間違いなく僕は、その中に空海を入れると思う。それほど、僕は空海が好きでなのだ。その空海が作った高野山の一大仏教キャンパスは、1200年を経た今日までその思想と魂とが受け継がれているのである。果たして、グロービスがつくる山の中のキャンパス(参照コラム「キャンパス候補地巡り」)が1200年後まで残ることになるのであろうか。この山に登るたびに、そんなことを考えさせられる。

今年は、この高野山で一つのアイディアが生まれた。そのアイディアを現実のものとすべく、今受講生とともにその準備に取り組んでいる。そのアイディアに関しては、次のコラムに記すこととする。


2005年2月28日
グロービスのオフィスにて
堀義人

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コメント(2)

  • 高野山。いいですよね。
    私は高野山の宿坊の女将の友人がいるので、子連れでもう2回も行っています。なんだかそこの土地に行くだけで心が洗われるというか・・・ゆったりした気分になります。
    そして、いつのまにか空海が好きになっていました。

    ちなみに高野山の友人は「櫻池院」という宿坊の女将です。

    高野山で浮かんだ、アイデアを早く教えてくださ〜い。

    投稿者: 末木佐知

  • 私の通っていた洛南高校は真言宗系(敷地は東寺境内)で、在校中にも、高野山合宿なるタコ部屋合宿で高野山を訪れたのを思い出しました。高野山大学での特訓授業もありました。

    しかし、高野山は、ああいう大規模なものが山上に存在すること自体がすごいですね。特に、壇上伽藍の立体感がたまりません。奥の院に至る墓地もまた、「エエ加減にせえ!」というほど続き、他に無い雰囲気を醸し出しています。堀さんのお好きな囲碁の本因坊戦も行われた塔頭・宿坊(旅館顔負けのきれいなところ)にも行きました。
    高校は嫌いでしたが、空海は私も好きです。最澄との関係も、映画「アマデウス」におけるモーツァルトとサリエリの関係に通ずるものがあり、面白いと思います。

    投稿者: sk

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