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2006年4月27日 (木)

日本人・アジア人・地球人 北京でのスピーチ

北京空港に降り立ち、キャッシュ・ディスペンサーで中国元を手に入れ、タクシーをつかまえる。そして、北京市内へ向かう。この道を何度辿っただろうか。

窓から見える景観にもう新鮮味を感じ無いので、i-podに入っているクラシック音楽をBGMに、詰碁(つめご)問題を解きながら、ホテルに向かう。交通渋滞が、心なしか以前よりもひどくなっていると感じるのは、気のせいだろうか。

天気は、快晴。クーラーがきかないのか、窓が開いている。暖かい空気が入ってきて、汗ばんできた。北京の町並みは、黄砂の影響か埃っぽい。ホテルに着いて、すぐにチェックインした。

今回の出張の目的は、北京で開催されるアジア技術円卓会議(Asian Technology Roundtable Exhibitio=ATRE)でスピーチをすることである。この 会議は、友人のAlex Vieux が主催している。彼の主催のイベントへの参加は、これで6回目となる。

最初が、ETRE(European Technology Roundtable Exhibition) というヨーロッパ版の会議で、2001年にスペインのセビリアで行われた。ETREには、その後2004年にカンヌに参加した。アジア版のATREは、2002年にソウル、そして2004年に上海で一度づつ参加した。 2004年にビル・ゲイツとともにシアトルで開催されたリトリートに参加した(今年のリトリートには、ソニーの出井さん と楽天の三木谷さんが参加 したらしい)。そして、今回が6回目となる。


最初のETREの時から、僕は一貫してスピーカーとして参加してきた。ただ、その当時は小さい分科会のパネラーとしての参加のみだったが、今回は、キーノート・セッションでのスピーチだ。Forbes asia の表紙に掲載された効果があったのか、確実に待遇がよくなって来ている。どうせ喋るならば、大きな舞台で喋りたい、と思うのは自然なことであろう。


スピーチは、着いた日の17時からの予定であった。チェックインしたのは、15時である。スピーチまで、あと2時間。多少緊張してきた。


ホテルでチェックインをしている際、フロントのホテルウーマンから、 「ATREの主催者からの伝言があり、お話ししたいことがあるから暫く待っていて欲しい」と、ぶっきら棒な口調で告げられた。北京のサービスの質はまだそれほど高くはなってない。暫くしてATREの担当者が登場し、申し訳無さそうに説明し始めた。

「当初17時からスピーチの予定だったが、なぜだかプログラム上では12時半からに変更になっていた。12時の時点で、堀さんが来なかったけど、安心してください。 予定通り17時から行いますから」。

よくわからない説明である。僕が手にしているスケジュールには、確かに17時からになっている。会議の直前に予定が変更になっていたのだ。しかし、ここでジタバタしていても仕方がない。部屋に入り、シャワーを浴びて、スーツに着替えて、会場に向かった。

会場には、中国人を中心に、テクノロジー系のスタートアップ会社とベンチャーキャピタリストが100名ほど集っていた。例によって、スケジュールが 遅れていた。アレックス主催の会議で、スケジュール通りに進行することは珍しい 。それでも、彼の突っ込みは面白いから、評判が落ちないのだ。

僕の番が来た。壇上にいるアレックスから 名前を呼ばれたので、立ち上がり颯爽と壇上に向かった。スケジュールに入っていないので、予定よりも参加者が少ないような感じがしていた。アレックスとがっちりと握手をして、抱擁してから、ソファーに腰掛けた。アレックスは、カリブ系のフランス人だ。僕らが会うときは、必ず抱き合って、背中をぽんぽんと右手で叩くのが慣例となっていた。

そして、対談が始まった。「なぜ、日本にはベンチャーキャピタルが少ないのか?」、「なぜ日本からは、世界的なベンチャー企業がソニー以降出てこないのか?」、「なぜ日本の電気メーカーのM&Aが進まないのか?」、「そもそも、なぜ日本人は英語が下手なのか?」(「勝手にしてくれ」、と思いながらも、精一杯で答えた)。

更に突っ込みは 続いた。「なぜ日本の改革はスローなのか?」、「ライブドア事件の教訓は何なんだ」、「なんでグロービスは、ベンチャーキャピタルをやりながらビジネススクールをやっているのだ」、「お前の志は何だ?」とか、さまざまな角度から切り込んでくる。 

僕は、その質問に一つ一つ、冗談を交えながら、答えていく。アレックスの顔を見ながら、一所懸命に答えているときに、「結構、楽しい」と、対談を楽しんでいる自分を発見していた。思わず笑みも漏れてきた。今回の対談は、初めて楽しみながらできたような気がしていた。

英語もすんなりと出てきているし、ボディ・アクションも結構しっかりと出来ている様な気がする。何よりも余裕を持って楽しめているのが大きい。やはり、何度も繰り返し繰り返しやってきた成果だろうか。あるいは、毎日電子辞書を片手に、Financial Times を読んでいるからだろうか。

最後の「お前の志(Ambition)は、何だ?」には、「3つの志がある」と最初に結論を言った上で、以下の通り答えた。

「先ず一つ目は、アジアNo.1のビジネススクールを創ることである。北米には、ハーバードやスタンフォードがある。欧州にはINSEADがある。アジアには、今のところNo.,1 の ビジネススクールが無い。10年後には、そのNo.,1の座にグロービスが座っているであろうと思う。会場の皆さんも是非グロービスの名前を覚えておいて欲しい」。

「二つ目の志は、アジアNo.1のベンチャー・キャピタルを創ることである。 シリコンバレーには、クライナー・パーキンスとかセコイアキャピタル という、著名なベンチャーキャピタル会社がある。だが、アジアには今のところ世界に名を馳せる会社はできていない。僕らは、第二のソニー、ホンダをつくり 、世界レベルの会社を多くつくりたい。そして、投資家に対してコンスタントに4-5倍のリターンを生み出す成績を残したい。それだけのことを、日本にあるベンチャーキャピタルができるんだ、ということを世界に証明したいんだ」。

「そして、三つ目の志が、一番重要なものである。5人の父親として、子供をしっかりと育てることである(笑)」、と言って対談を締めくくった。

先の「人生のバランス」のコラムに書いたように、仕事と家庭のバランスは、とても重要なのである。

今回のATREには、日本からのパネラーが比較的多く来ていた。客観的に見ても、日本のスピーカーの方がクオリティが高い感じがしていた。特に、イーアクセスの千本会長のスピーチは、素晴らしかった。他には、ACCESSの鎌田副社長 、ソフトブレーンの小林CFOなどがスピーカーとして来ていた。日経新聞の関口編集委員 は、モデレーターとして活躍しており、デジタルフォレストの猪塚社長 は、ベンチャーキャピタリストの前で12分間のプレゼンをしていた。

最近、日本のベンチャー企業の元気さが目に付く。しかも、内容が濃くなってきている。来年はこの会議が、日本で開催されるらしい。日本のベンチャー企業の良さを世界に知らしめる良い機会と思い、積極的に参加したいと思う。来年には、この会議以外にも、YEO (Young Entrepreneur Organization)とYPO(Young President Organization)が日本で社長大学 (年2回行う国際大会) を開催する。それぞれ10年ぶりの開催である。今年の6月には、世界経済フォーラム(WEF)がアジア版の会議を行う。

日本経済も復活してきたからか、世界からも日本への関心が戻り始めている。 これからも、「日の丸を背負った」志士達が、さまざまな分野で活躍してくれることであろう(参照コラム「日の丸を背負うということ」)。

飛行機がアジアの次の目的地に向かっていた。
これからもアジアや欧米において、日本やグロービスのプレゼンスを高めるために、さまざまな機会に発信していきたい。

中国やインドの台頭が著しい中、このような場所では、僕らは日の丸を背負った日本代表なのであろう。
サムライらしく、礼儀正しく、毅然とした姿勢で、常に挑みたい。この与えられた機会に感謝しながら。


2006年4月27日
北京発の飛行機の中で
堀義人

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コメント(2)

  • 日の丸を背負うということを最近私も海外で講演すると
    強く感じます 世界に誇れる何かを作り出したいですね
    同時に「5人の父親として、子供をしっかりと育てることである(笑)」というビジネスマンである以前にヒトとしてあるべきという考えは堀さんのお人柄が出ていてナイスです!(死語?)

    投稿者: CAH

  • 先日、御社の社員の方とお話しする機会がありました。社長の仕事ぶりや考え方がオープンになっている会社だからこそ、社員の方々も迷いがなく生き生きと働いているのでしょう。いい会社ですね。

    投稿者: okono

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