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2008年1月16日 (水)

組織人 新春出張報告〜HBS100周年記念会議に参加して

正月明けに、グロービスの年頭の方針を発表したあと、息つく暇も無いまま、成田から飛行機に飛び乗った。行き先は、サンフランシスコ。今回の出張の目的は、主に以下の二つであった。

一つ目が、ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)が100周年を記念して主催するベンチャー・キャピタル業種別会議である。

この業種別会議は、HBSが100周年を迎える2008年に、従来から行っている(1)学年ごとのリユニオン(同窓会)、(2)各都市ごとの同窓会組織でのイベントに加えて、新たに導入した三つ目のイニシアチブで、産業・業種ごとに会議を開催することにしたものである。

出張の、二つ目の目的が、HBSの卒業生理事会に出席することである。今回、卒業生理事会の歴史上初めてボストンのキャンパス以外で開催されることになった。たまたま業種別会議と卒業生理事会を主催する教授が一緒である、というのが一番大きな理由であったが、「冬の開催の時には寒いボストンではなくて、暖かいカリフォルニアで是非とも」という意見が昨年出ていたので、それを反映してのことでもあろう。

今年度が、卒業生理事として僕の最後の年(三期目)にあたるので、有終の美を飾るためにも出席回数を増やす必要があった。直行便で行ける西海岸での開催は、僕にとっては朗報であった。

これら二つの目的に加え、僕は常に、世界のどこに行こうとも、その地域にいる投資家に、ファンドの進捗状況を報告することにしている。今回も、サンフランシスコで重要な投資家の一人とアポが取れたので、会議の合間を縫って報告に参上する予定であった。

それらを目的として、新年早々1月9日に成田を発ち、4泊5日のベイエリア出張が始まった。今回は、一人での出張となったが、実は厄介な「お供」がついてきていた。風邪である。出張前から既に少し風邪気味だったのが、行きの飛行機の中で悪化させてしまい、出張中は体調維持に苦労することになった。

空港に着いたが、カリフォルニアの青い空の出迎えとは行かなかった。天気は曇りで比較的寒かった。双方の会議は、パロアルトに新しくできたフォーシーズンズ・ホテルで開催されることになっていた。

チェック・イン後、お湯に浸かり電磁波を洗い流した後は、ただひたすら寝ることにした。時差ぼけを解消するためには、本来は日中寝ないのが一番だが、これだけ体調が悪いと、そうも言っていられない。

米国大統領の予備選が気になっていたので、テレビをつけたかったが、体調維持にできる限りの時間を使うことにした。

夕方18時からレセプション・ディナー・パーティが開かれた。昔懐かしき同窓生も何人か来ていた。

着席した後で、学長の挨拶でディナーが始まった。学長の以下コメントが印象的であった。

「米国のベンチャー・キャピタリストの25%は、HBSの卒業生が占めている。そして、その比率は中国・インド・ヨーロッパなどを含めても変わらないのが実状である。また、その25%のHBS卒のキャピタリストは、ファンド運営のトップ層に多く偏在している。その数字を見るだけでも、HBSの業界における貢献は高いものだと理解できる」。

確かに、スタンフォード大学の“縄張り”のシリコン・バレーでも、「ビジネススクールは、HBSに通った」という人が多いのだ(大学がスタンフォードの工学系で大学院がハーバードという組み合わせが多いらしい)。

インテルを育て上げた伝説的なベンチャー・キャピタリストであるアーサー・ロック氏や業界を作ってきたビル・ドレイパー氏も同窓生である。コンパック、サン、ネットスケープ、アマゾンそしてグーグルなどを育て上げてきたジョン・ドアー氏や、更には欧州のスカイプや中国のフォーカスメディアに投資をしたティム・ドレイパー氏も同様にHBSの卒業生であった。

僕のクラスメイト80名のうち、数えてみたら何と一割にあたる8名の同窓生がベンチャー・キャピタル(以下、VC)運営しており、全員が創始者かパートナーとなっていた。地域もジュネーブ、東京、香港、ボストン、NY、LA、スペインなど多地域に分散していた。

デザートが各テーブルに提供されるころに、アーサー・ロック氏、ビル・ドレイパー氏などの伝説的なキャピタリストが登壇してパネル・ディスカッションが始まった。インテル創業時の秘話などがとても興味深かった。

ディナーの後は、同窓生とバーに向かった。昨年6月に会ったニール・ライマー氏とディズニー系のファンドを運営するジョン・ボール氏とである。
(参照コラム:欧州視察団VI〜アジアNo.1と欧州No.1との「友達提携」)
18年前にクラスで学びあった仲間との再会である。他愛も無い話に終始したが心温まる瞬間であった。体調を考慮して、僕は早めにその場を後にした。

翌日は、コンピューター博物館にバスで移動した。天気は雨である。体調のせいか、天候のせいかはわからないが、気分が優れない。会場では、昼食を挟んで夕方までびっしりとパネル・ディスカッションが組まれていた。参加者総数は180名程度で、大きな会議室いっぱいにに机が並べられていた。

最初のパネルでは、前述のティム・ドレイパー氏やハイランド・キャピタル社の創業者であるポール・ミードー氏などが、「ファンドの戦略はどうあるべきか?」に関して論じていた。

次のパネルは、セコイアキャピタルのインドのパートナーとクライナー・パーキンスの中国のパートナー、そして前述のニール・ライマー氏などが参加した「ファンドはどう国際化すべきか?」の討議であった。

昼食は、学長の挨拶の後で、HBSのケースでも有名なドナ・ダビンスキー氏(パームパイロットの創業者)の簡単な挨拶があった。

そして午後には、更に二つのディスカッションである。「次の産業は何か?」と「VCの将来はどうあるべきか?」というものであった。

議論を通して感じたことをまとめてみることにした。

1)まず感じたことは、「米国VCでは、中国やインドに進出することが一つのファッションになっているようである」という点だ。この国際化が成功するかどうかは、わからない。教授が指摘し続けていた、「なぜそんなにみんなと同じことをしたがるのですか?群集心理そのものですよね」というポイントには、誰も明確な答えを出せないでいた。そもそも国際化以外には、戦略的な差異化をしにくい業界なのかもしれない。だからこそ皆同じ方向に流れるのであろうか。

グロービスの場合には、幸いなことに、グロービス経営大学院があるので、「僕らは、会社を育てるとともに人を育てているのだ」と言える。これほどユニークなポジションを持ったVCは世界のどこを探しても見つからない。投資家もその点を評価しているし、起業家からグロービスのビジネススクールへの期待も大きい。この点はかなり強い戦略的優位性になっている。

2)次に感じたことは、「他のVCも考えていることは基本的に変わらない」という点である。出てくるトピックスは、僕らの中でも常に議論をし続けてきている内容ばかりであった。「コミュニケーションを蜜に行って信頼関係を醸成する」「人材の採用と育成の重要性」といったことである。どうやら成功への王道は無いようである。しっかりと真面目にやるべきことを地道に一歩一歩進めていくことの重要性を改めて認識した。

3)そして最後に、「VCの社会的意義の高さと、投資家にとってのリターンの低さとの乖離が、今後あり続けるだろう」という、ビル・サルモン教授の指摘が新鮮であった。彼が明確に宣言しているのは、「将来のVCの中間値(メディアン)のリターンはゼロ・パーセントを下回るであろう」ということ。つまり、業界全体としては儲からないのだ、という。しかし一方では、社会にとっての新産業創出、イノベーション、雇用創出などのVCの役割と効果は、かなり高い。」このギャップは今後とも存続し続けるであろう」と、サルモン教授は指摘していた。

確かに、米国のトップ・ベンチャーキャピタルといえども、1999年以降の投資に関しては、かなりリターンが落ち込んでいる。その影響からか昔よく聞いた「トップ・クオタイル(1/4)」という言葉が、「トップ・ドッサイル(1/10)」という表現に入れ替わっていた。皆リターンを上げる工夫と努力をし続けて、何とかトップVCとして認識されるように努力をしているのであろう。

「今は、バイアウトやヘッジファンドには苦難の道が待っている。これからは、VCにとっては良い環境になる」というポジティブなトーンで、100周年記念の最初の業種別ミーティングであるVC会議が締めくられた。

この会議は、今まで参加したどの会議よりも、議論のオープンさ、参加者の質の高さ、そして協力しあっていこうというポジティブな姿勢が感じられた。今回、僕はパネリストには入っていなかったが、執行委員会のメンバーに名を連なさせてもらった。こういう機会があれば、今後とも積極的に参加したいと思った。

卒業生理事会や投資家面談なども非常に順調に進んだが、体調はあまり芳しくなかったので、適宜休みをとりながらこなしていった。アポを最小限に絞り込んだので、夜の空いた時間に大統領予備選のニュースを見る事ができた。共和党候補のパネル・ディスカッションや、ヒラリー・クリントン氏とバラック・オバマ氏の双方のスピーチを聞くことができた。

近年まれにみる本命無き戦いではあるが、僕が見た印象だけで、大統領戦に勝ち抜くのは、民主党はヒラリー・クリントン氏、そして共和党はマケイン氏ではないかと思う。双方とも信念の強さ、現実的な政策立案能力、そしてコミュニケーション能力で他候補者より優れていると思えたからだ。

実に米国の大統領選は面白い。日本でも同様のプロセスを採用して、国民の手で首相を選んでいるのだ、という実感を持たせて欲しいものである。

サンフランシスコ空港を飛び発った飛行機も、もうそろそろ成田に到着しようとしていた。
体調は、かなり回復してきた。翌週からもハードな日程が続く。新年会もこれから開催される予定であった。

今年は、基本に戻り、「心技体を鍛えて、世界に発信する年にしたい」と思う。

コラムの読者にも改めてご挨拶申し上げます。

皆さんあけましておめでとうございます。M(__)m
本年もよろしくお願いします。M(__)m

2008年1月14日
成田に向かう飛行機で執筆
堀義人

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コメント(2)

  • HBS100周年という節目に、ビル・サルモン教授の指摘は本質を突いているように思えた。マネーに偏重した欧米ファンドがサブプライム問題で沈んだのは日本経済のバブル崩壊から何も学んでいなかった。
    社会的な意義とリターンの乖離が大きくなることは、新しい時代を切り拓く先行投資でそのリターンを受けるのは次世代の子供たちではないだろうか。
    そんな使命であれば、多くの人々から賛同が得られて「自然な流れ」が生まれると思えます。損得、正義とは次元の異なる字空間ではないでしょうか?
    次の時代を担う人を育てることは生物の摂理そのものではないでしょうか?

    投稿者: 山下 政嗣

  • 大統領候補者選への感想すごく共感しながら読ませていただきました
    >日本でも同様のプロセスを採用して、国民の手で首相を選んでいるのだ、という実感を持たせて欲しいものである。
    本当にそうです

    投稿者: シンよしだ

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