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2008年11月17日 (月)

組織人 ベンチャー・キャピタル業界の地殻変動

「グロービス、ベンチャー・キャピタル、ジャパン!」
「グロービス、ベンチャー・キャピタル、ジャパン!」
「グロービス、ベンチャー・キャピタル、ジャパン!」

と、僕は3回連呼して、騒々しい参加者の前でのスピーチを締めくくった。僕は、このスピーチを毎年11月に行ってきた。

場所は、香港。会合の名前は、アジア・プライベート・エクイティ/ベンチャー・キャピタル・フォーラムである。参加者は、800名にも及び、アジアを始め世界中から、プライベート・エクイティ、ベンチャー・キャピタル、投資家、弁護士、会計士、コンサルタントなどが一堂に会する年に1回のビッグイベントの場なのである。

グロービスは、この会合のオープニング・レセプションをここ数年間スポンサーしてきた。その場で毎年スピーチの機会を与えられるのだが、参加者はスピーチよりも、ビール、ワインや食事に夢中なので、スピーカーには見向きもしてくれない。

そこで、苦渋の策として考え付いたのが、冒頭の三つの言葉である。僕の挨拶はいつも簡単。「皆さんに会えてうれしい。是非このカンファレンスを楽しんでください。本日のドリンクは全てグロービスがスポンサーしています。多いに楽しんでください。最後に皆さんに覚えて欲しい三つの言葉があります」と前置きして、冒頭の連呼につながる。

毎回これをやると会場が盛り上がるのである。最近では初めて会った方に、「グロービス」と言うと、「ベンチャー・キャピタル、ジャパン」と返答が来ることもある。これだけグロービスが浸透すれば、数年間スポンサーをしてきた甲斐があった、というものであろう(もう役割を終えたので、グロービスがスポンサーから降りることも検討されよう)。

前置きはこの程度にして、本題に入りたい。今年の会合は、例年とはかなり雰囲気が違っていた。僕は、この会合にはアジア経済危機のころから10年以上、毎年参加してきたが、今年ほど「地殻変動」というものを感じることは無かった。

レセプションの翌朝のキーノート・スピーチは、テキサス・パシフィック・グループ(TPG)の創業会長、デビッド・ボンダーマン氏である。TPGは、コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)やブラックストーン・グループ、カーライル・グループと並ぶ、大規模のファンドを運用するプライベート・エクイティ(と称されるバイアウト・ファンド)のプレイヤーの一人である。

彼はとても弱気だった。「7年間はリターンが無いものと思って欲しい。現在、ファイナンスがつかないので全くディールができる環境ではない。そして、今回の不況は今までのとは全く違う。V字回復、U字回復は無い。あるのは、L字型の不況のみである」というのだ。

このボンダーマン氏は、みすぼらしい格好をすることで有名である。髪の毛はボサボサで、スーツはいつもよれていて、ネクタイはいつも曲がっている。昨年のこの会合でのスピーチでは、「格好なんて関係ない」という主張のように感じて、強く誇らしげに見えた。今年は、みすぼらしいままの印象を与えて、どこか哀れな感じさえした。

「それだけの苦境なのか」という印象に、会場は同情すら感じているようで、厳しい質問は皆無であった。皆の頭をよぎっているのが、今年4月米貯蓄金融機関ワシントン・ミューチュアルに7000億円を投じた案件だ。10月にハーバード・ビジネススクール(HBS)で行われたパネル・ディスカッションでは、「最も愚かなプライベート・エクイティのディールだ」とパネラーの一人が称していたように、このサブプライム・バブル崩壊の大波の中で、あっと言う間に銀行は倒産し、投資額は全損し、価値はゼロになってしまったのだ。

ボンダーマン氏に対して、僕は同情をする気にはなれない。なぜならば、昨年のこの場において、彼は根拠の無い痛烈な日本批判を行ったからである。僕は、いまだに彼を心情的に許す気にはなれない。

いずれにせよ、プライベート・エクイティを取り巻く環境は、激変していることは確かである。銀行ローンがつかないので投資を実施しにくいし、投資先企業がこの不況に見舞われて損失を被る可能性が高い。しかも、それらの投資先企業を株価が高い時に買収したので、今の株価で換算すると、すでに時価損失を抱えているところも多いのである。

唯一の利点は、償還(リデンプション)が無いことである。ボンダーマン氏のTPGは、ヘッジファンドの運用も行っているが、彼は「ヘッジファンドの方が大変だ」と言っている。

「なぜならば、ヘッジファンドは、投資家の要請に従って投資してもらった資金を償還しなければならないので、その償還のために株式などを売却しなければならないからだ。一方のプライベート・エクイティは、償還は全く必要ないのである。契約上10年間は、投資家の資本はロックアップされているので、ずっとパートナーでいられるのである」。

そう言って、ボンダーマン氏は、壇上で投げキスをしたのである。このキスは、正直言って気持ち悪かった。償還を受けないことがよほどメリットなのであろう。その唯一のメリットをそれだけ強調するとは、これからのプライベート・エクイティ業界の地殻変動を予感しないではいられない。

これらのヘッジファンド、プライベート・エクイティとベンチャー・キャピタルが、いわゆる代替投資(オルタナティブ・インベストメント)と呼ばれているカテゴリーに入る。機関投資家からすると、投資のオプションは、株式、債権、不動産、そして代替投資の4つに大きく分類される(これらを資産クラスと呼ぶ)のである(不動産を代替投資に入れる場合もある)。そして、その代替投資の小さな部分を占めているのが、ベンチャー・キャピタル投資である。

様々な資産クラスを、米国、欧州、アジア、南米・中国・アフリカなどに分散して、ポートフォリオ投資をするのが普通である。つまり、グロービスが行っているベンチャー・キャピタル投資事業では、投資家からは、大きく分けて二つの選別を受けることになる。

(1)世界の中で日本が投資の対象になるかどうか。
(2)資産クラスの中で、ベンチャー・キャピタルへの投資を行うべきかどうか。

最近では、アジアの中では、日本への投資をやめて中国・インドにシフトしている投資家が多いし、代替投資の中で、ベンチャー・キャピタル投資そのものをやめる動きもある。世界からお金を集めるのは簡単ではないのだ。

ここで簡単にベンチャー・キャピタルの業務を説明しよう。ベンチャー・キャピタルでは、主にベンチャー企業を発掘して、投資を実施して、経営陣に加わり、成長を促進させ、上場を果たしたり、売却を行ったりする投資業務と、その投資に充てる資金を世界中から集めるファンド募集業務に分かれる。

ベンチャー・キャピタルに魅かれる人は、当然ベンチャー企業への投資業務をしたくてジョインするので、投資家訪問を伴うファンド募集業務(いわゆる営業・IR業務)はあまり好まれていない。

僕のマネジメントの基本は、「他の人にできないもの、他の人がやりたがらないものを行う」である。そうなると、結果的にファンド募集業務が僕の主幹業務となり、自ずと資金集めのために世界を駆けずりまわることになる。その活動の一環として冒頭のように、グロービスの日本のベンチャー・キャピタル投資をアピールしてきたのであった。

そして、ここにきてベンチャー・キャピタル(VC)業界の地殻変動的な動きが出てきたのである。

まずは米国シリコンバレーの状況である。1999年以降、ほとんどのVCは、元本すら返していないのが実情である。やっとITバブルの崩壊から立ち直りかけたのに、今回のサブプライム・バブルの崩壊である。消費不況や企業業績の悪化が重なり、投資先企業の資金繰りが急速に悪化している。そして株価の低下が重なり、新規上場もこの3四半期全くないのが現況である。かなり厳しいようだ。

今までホットだった中国・インドも同様に深刻な状況になっていると言う。株価バブルが続いたため投資をした企業のバリュエーション(株価評価)はかなり高くなっていた。そこに不景気が襲っているのである。当然、上場・売却などは見込めないと言う。米国から中国・インドに進出したVCもかなり多くが失敗するであろうと。

一方、日本も当然影響を受けないわけが無い。ただし、他国と比べれば、状況は良いと言えよう。上場案件がいまだにある、という事実そのものが、他国の方々にとっては、驚異なのであろう。おそらく、今後数年は、日本のVCのリターンが他国よりは良くなるのではなかろうかと思う。

幸いグロービスのVC投資のリターンは相対的には悪くはない。一号ファンド(’96)は7倍以上投資家にリターンを生み出した。二号ファンド(’99)も既に投資額を回収している。これから有望な上場案件も控えている。1999年のVCファンドは、世界的に見て壊滅状態であった。しかも日経平均は、その当時から今にかけて、それこそ半減しているのである。その中ではかなり健闘していると言えよう(当然、投資家のリターンへの期待はもっと高いので、満足と言えることは無いのだが)。

VC 業界は、これからは世界的に淘汰の時代に入ると思う。ジョージ・ソロス氏は、「ヘッジファンドは半減か1/3か1/4に減っても驚かない」と公聴会で言ったという。僕は、VC業界も(当然プライベート・エクイティ業界も)、資金運用の規模が半減しても驚かないであろう。

業界規模が半減するというのは、大きな地殻変動である。その地殻変動に備えて、基盤固めするのが僕らにできることであろう。幸い投資先企業には、有望な案件が多い。しっかりと経営に参画して、この地殻変動を乗り切りたいと思っている。

香港での滞在時間は、短時間であったが、とても有意義であった。投資家の代表により組成されるボード・オブ・アドバイザーズ・ミーティングを実施し、投資家の方々とも意見交換をする機会を得た。ベンチャー・キャピタルのパネル・ディスカッションにもモデレーターとして参加し、世界の状況が手に取るように把握することができた。

「これからは、L字型の不況である」という言葉を噛みしめながら、日本への帰路に着いた。その日の米国株価は、乱高下していた。一日の値幅が900ドル近いという驚異的な振動であった。その振動から生じる「地殻変動」の後、世界はどうなっていくのであろうか。

その週末には、ワシントンで各国首脳が集いG20が開催される予定となっていた。
これからは、本格的な不況が世界を襲うことになろう。

その中で、地道に一歩一歩やるべきことをやっている人・会社は生き残り、繁栄するのであろう。
まるで、アリとキリギリスの寓話のように。

2008年11月17日
自宅にて執筆
堀義人

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コメント(4)

  • 堀様

    貴信拝受しました。
    今までにもまして、利益の”質”が問われる時代になりましたね。
    やみくもに増収増益を目標に掲げるのではなく、各企業はその存在意義を見つめなおし、社業を通じ如何に社会貢献してゆくのかを再確認すべき時なのではないでしょうか。
    バブルというものが期待と実態の差であるならば、それは市場メカニズムの宿命であろうかと思います。
    昨今の環境下、サステイナビリティについて話題になることが多い今日です。
    我々は往々にして永続可能な枠組を求めたがる傾向にありますが、そうではなくて、万物は流転することを理解し、常にコアコンピテンシーを再定義し続け、環境変化に適応・変容してゆく柔らかさが、強い志と共に求められるのではないでしょうか。
    いつも、有意義な議論展開を有難うございます。

    投稿者: 増岡聡一郎

  • 堀 様
     お疲れ様でした。
    今回は世界経済の状況を肌で感じるようなコメントを拝見し、経済の中心の実情をいち早く教えてもらったのだと感謝しています。
    日本経済の、また日本人の草の根の強さを信じきってきただけに、かなり驚きました。
    堀様が今回名前を出された方、私はお会いしてないからいえるのかもしれませんが、投資家である前に、実業家である前に「一人の人間」であると自身を含めて心から思いました。同じ人間として可哀そうだと思ってしまいました。
    依って立つ依りどころが資金や事業や自分自身の才能だけだとしたら、それは愚かなことと思いました。
    誰にでもミスや失敗がある中で、心だけは毅然としていられるだけの依りどころが持てないということが。
    大切な家族や友人が心にいない人生なのかなと思ってしまいました。シリコンバレーのことなど拝見するにつれ「泣きっ面に蜂」状態の経済事情なのだと知り、本当にマネジメントは戦いであると強く感じました。
     正直難しい言葉も多くでてきて解らないこともたくさんありますが、このブログは擬似体験をさせてもらえ、その場の雰囲気をよく伝えて下さるので本などよりかなり勉強になります。
    いつもありがとうございます。
     寒くなりますのでこれからもくれぐれもお身体ご自愛下さいませ。

    和賀 公威

    投稿者: 和賀 公威

  • 堀さん

    大変ご無沙汰いたしております。

    いつもはコラム「起業家の風景」を大変楽しく拝見いたしております。
    Volも184回配信ですね。
    あなたのアントプレナーとして、学長としてそして、ベンチャーキャピタリストとして、

    世界的な第一人者となられたことは、大変嬉しく私元ベンチャーキャピタリストとして

    誇りに思っております。
    デビッド・ボンダーマン氏のスピーチを紹介されていますね。
    「今回の不況は7年間リターンはないL字型の不況のみである」
    弱気というより絶望的見通しですね。
    どこかで聞いたことのある台詞です。
    私は大和証券時代、株式の歴史的な大天井と大底の現象について研究をしたことがあります。
    現在、1930年来の大不況だと言われていますが、アメリカでは1979年にビジネスウィークに「株式の死」という特集記事が出たほど経済も株式市場も沈滞しておりました。
    ダウは、700ドルくらいでした。
    株式市場のことわざに、「相場は総悲観の中で生まれ懐疑の中で育ち、楽観と共に成熟し、幸福と共に消えていく」というのがあります。
    正に、今は世界中が総悲観で希望を失っています。
    デビッド氏がその一人ではないでしょうか。
    確かに世界的に淘汰の時代に入ってきたと思います。
    しかし、人間が存在している以上、必ず新しい命も生まれるはずです。復活を遂げる人もいます。
    それは、歴史が証明しています。
    フラフクタル現象(相似)は、必ず大天井と大底で現れます。驚く程、似ているのです。

    人間の行為だからでしょう。
    今は、来るべき将来の回復に向けて、一歩一歩やるべきことをやるしか方法はありません。
    私は現在、ラディアホールディングス(旧グッドウィル)の再建に向けてサーベラスと協力をして、
    一歩一歩歩んでいます。正に、アリとキリギリスの寓話です。

    ご健闘をお祈りいたします。


    2008年11月18日
    六本木ヒルズオフィスにて


    堀井 愼一

    投稿者: 堀井 愼一

  • 堀様

    楽しくブログを拝見させていただいています。
    グロービスと弊社は実は目と鼻の先にありまして・・・
    何度か堀さんをランチタイムでお見かけしたことがあります。

    私は昨年3月に会社を立ち上げて、1年半が経ちました。
    外部の方々と組みながら、ひとりでまだ5.4畳でやっております。
    昨今のベンチャーの動きを見ていると、海外の企業に評価されて買収されていたり、
    資本関係を持つ企業が多くなっているのではと思います。それだけ評価されているからだと思いますが、それでは寂しいと思います。
    日本から海外に発信、侵食していくくらいの気持ちと魂がないと、10年後の日本国内の企業は完全に外資系企業の日本法人だらけになってしまうと思います。

    まだまだ小さな会社ですが、危機感と謙虚な気持ちと冒険心はいつまでも忘れないように、三菱財閥を作り上げた私の大好きな岩崎弥太郎になれるよう、私はグロービス、堀さんの成功されている良い≪氣≫を同じ麹町で感じながら頑張ります!

    投稿者: 佐藤

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