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2010年1月27日 (水)

日本人・アジア人・地球人 ダボス会議2010〜(2)ダボスへの道のり

1月25日月曜日の朝に、家を出た。長男の中学受験の真っ只中なので、後ろ髪を引かれる思いでの出張である。成田エクスプレスに乗り込み、JAL便でフランクフルトに向け飛び立った。スイス航空のチューリッヒ直行便があったのだが、なるべく日本のエアラインに乗るべく、特に会社更生法を申請した日本航空を応援する意味でも、JAL便を使い、フランクフルト経由でダボスに向かうこととした。

成田のゲートの後ろに、ずらっと10〜20人の整備士やキャビンアテンダントが神妙な表情直立不動で並んでいた。僕が通りかかると、一斉に「ありがとうございます」と頭を下げて挨拶をされた。一人の整備士が、僕に近寄り「僕たちの気持ちです」と言って、名刺状の紙を渡された。

表には、JALの飛行機の写真である。その裏には、「一生懸命に頑張ります」と手書きで書かれていた。じ〜んと心が動かされた。彼らには、全く罪が無いのである。罪があるのは、トップの経営陣と日本の運輸行政である。それでも、この人たちのうちの何人かは、結果的にはリストラされてしまうのかもしれない。罪もなく、一生懸命に働いてきたのに、である。経営トップの立場としては、早め早めに手を打つことの重要性を、改めて認識させられる一件であった。

機内で、今回の旅程に目を通した。月曜日夕方にフランクフルトに着く。翌26日火曜日の朝フランクフルト郊外にあるビジネススクールを訪問する。ドイツを代表するそのビジネススクールの学長とは、大連のダボス会議で同じパネルに登壇していたのである。その後メールで連絡を取り合い、機会がある時に相互に訪問する約束をしていたのである。ビジネススクールの世界的ネットワークを広げる活動の一環である。

スクール訪問後、午後の便でチューリッヒに向かい、空港ホテルにチェックインする。18時からワイン・テイスティングの会合があり、20時から「ダボス直前会議」のレセプションである。

この「ダボス直前会議」というのは、正式にはHORASISという会議の年次総会で、ダボス会議の直前にチューリッヒ空港のホテルで一泊二日で開催されるものである。この会議の主催者とは、以前から知己があったので、僕が、この会議のコンファレンス・チェア(共同議長)を務めることになったのである。今まで多くの国際会議に参加してきたし、パネリストやスピーカーとして登壇したことはあったが、コンファレンス・チェアに名前を連ねるのは初めてである。とても、光栄なことである。

翌日1月27日水曜日の朝8時から僕が登壇し、「世界を取り巻く諸問題」に関して、意見交換することになっていた。午後に、直前会議が終了し、ダボスに移動し、夕方からダボス会議に参加する。

1月28日木曜日の朝からは、ダボス会議のスケジュールがびっしりと組まれていた。僕の登壇予定は、その日の14:30-16:30である。夜は、ジャパン・ナイトが開催される。

1月29日金曜日の朝にハーバードのレセプション、インフォシスの招待ランチョンなどがあり、翌日30日土曜日の夕方の便で、フランクフルト経由で帰国する予定だ。

2月1日の長男の受験の前日には、帰ってきたいという気持ちから、予定よりも一日早く帰国することにしていた。これが、ざっとした今回の出張の流れである。

フランクフルト空港で運転手に迎えられ、ビジネススクールの近くにあるホテルまで車で移動した。外は、一面の銀世界である。運転手によると、これほどの雪は、フランクフルトでは、珍しいのだという。僕は、ふと「ドイツに来るのは、いつぶりなのか」と記憶を辿り始めた。1999年にエイパックスと提携してから、2001年にかけては、事務所訪問、現地研修、会議への参加、投資家訪問などで何度も来ていたが、それ以降はぱったり来ていないのである。最近は、もっぱらロンドン、パリ、チューリッヒのみで、ドイツに来る用事が無かったのである。

ライン川のほとりにひっそりと佇むホテルに、車が着いた。部屋にチェックインするなり、一日たまった大量のメールに返事を書く作業を一心不乱にやり続けた。終わったのが、二時間後であった。水着に着替えて、バスローブをはおり、地階にあるプールに向かった。

プール・エリアに入ると、プールで泳いでいる女性が一人、目に入った。何気に眺めていると、ビックリしたことに、その貴婦人は、全裸で泳いでいるのである。プール・エリアには、その全裸の貴婦人以外には、旦那とも思える太った男性がタオルにくるまりながら、新聞に目を通しているのみであった。

「そうか。ここは、ドイツだ。サウナは混浴で、しかも全裸で入るのが基本となっている。サウナに付随しているプールという位置づけで、全裸なのでは」と思い、サウナを探したら、やはり奥にサウナが見つかった。

僕は、とっさの判断で、水着を脱ぎ、シャワーを浴びて、誰もいないサウナに入った。暫くすると貴婦人が、全裸のままサウナに入ってきた。おもむろにタオルを下に敷いてそのまま上向けに寝転がってしまった。僕は、目のやり場に困ってしまった。

沈黙の後に、彼女がむくっと起き上がり、水が入っている桶を指差しながらドイツ語で何やら声をかけてきた。僕は、英語で返答した。彼女は、どうやら水をもっとサウナ石にかけたいようで、そのまま桶をもって外に出て、水を汲んで戻ってきた。僕は、その桶を受け取り、石に水をかけながら、貴婦人と一言二言会話をした。この近くに住んでいる方で、年間会員として、このプールに頻繁に来るのだと言う。彼女が、先にサウナから退出された。サウナ室を出るときに、挨拶をされたので、「お話できて楽しかったです」とニコリと伝えた。そして、彼女は全裸のまま、シャワーを浴びて、プールに入っていた。

僕も、汗を十分にかいていたので、シャワーを浴びて水着をはかずにゴーグルをかけて、プールにそのまま飛び込んだ。プールは、12メートル程度しかないが、冷たくて気持ちがいい。僕は、大会に備えて、クロール、バタフライ、背泳ぎ、平泳ぎと全種目練習した。すっぽんぽんで背泳ぎをしている姿は、誰にも見せられない光景であろう。

そのプールでは、見ず知らずの男女がすっぽんぽんのまま泳いでいるのである。不思議な光景であるが、これがこの地では正しいことなのかもしれない。国によっては、常識など変わってしまう、好例にも思えてきた。僕は、全裸のまま、再度サウナに入り、プールに入るルーチンを繰り返した。そして、最後にシャワーを浴びて、バスローブをはおり、ゴーグルと乾いたままの水着を片手に部屋にもどった。

明日、ホテルマンに、「そもそもあのプールは、全裸で泳ぐのが正しいのか、水着を着ているのが正しいのか」を聞いてみようかと、寝る前に考えてみた。仮眠をとったあとに、夜中の12時過ぎに、電話会議のために叩き起こされた。一時間強ほど電話会議をしたあとに、再度眠りについた。

このようにして、ダボス会議出張の旅程第一日目が過ぎていった。

2010年1月26日
フランクフルト郊外のホテルにて
堀義人

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コメント(7)

  • いつもリアリティのあるコラムを共有いただき、本当にありがとうございます。襟を
    正して読ませて頂いています。(後半は別の意味で妙なリアリティがありました
    が。。。)

    お書きになっていた、ゲートに並んでいた日本航空スタッフの皆さんの部分を読ん
    で、思わず胸が熱くなりました。自分自身の経験でも感じたのは、甘い経営判断のも
    たらす結果の重篤さと、それによっていろいろな形で犠牲になってい
    く多くのまじめな社員の存在です。

    目先の成長や数字だけではなく、人材・組織・ビジネスモデル全体を一定の時間をか
    けてしっかり育てていく。そのような経営者を目指し、そしてそのような経営者を育
    てていくのが自分の役割なのかな、そのように感じながら読ませて頂きました。

    勝手なコメントになってしまいましたが、どうかダボスでの会議が実りあるものとな
    りますよう、祈念しております。

    投稿者: 廣瀬 聡

  • 堀学長様

    久々のコラム拝見致しました。
    お元気なご様子、本当に嬉しかったです。
    ダボス会議の内容は心待ちにしています。

    日本航空に勤務する従業員の方々の御心、決意、行動を伺い同苦しました。
    日本航空に勤務する一人でも多くの方、またそのご家族にご多幸あれと祈る想いです。
    と共に堀学長の行動と心に感銘を受けました。
    学長はやはりひとつの大きな哲学を支柱に行動実践されていらっしゃるのだと
    再確認しました。
    此のたびの日本航空を選ぶことも然り、他のさまざまな場面でも終始一貫、
    堀学長が心を大切にされ社会貢献に報いる御心であることがわかります。
    「言うは易く、行うは難し」のご自身の信念を日々の生活のうえに自体顕正される
    学長の姿。
    私も自らの使命に身も心も捧げて社会のため人のために生きて
    この生涯を終えようと、強い希望と勇気を戴きました。
    有難うございますm(__)m

    国により違いはありますが、教育家・政治家・経営者・首脳など国や世界の経済、教育、文化、政策などに大いなる影響を与える人間の中に確固たる哲学を持って行動する識者・リーダーは残念ながら現状では多くはありません。

    我が使命と哲学、そして「なんの為」という原点を持った人が少ないなか、
    堀学長の志と行動が私の最高の栄養となり、心身の滋養となり、
    職場でもとても役にたっています。

    ドイツでのプール、サウナでの一コマも私にとっては笑い話ではなく、
    堀学長が何時いかなる状況でも勇気をもってその国の文化に適応しようと挑戦し、
    克己しているのだと感動しています。(これは小学生囲碁合宿のコラムでも適応する努力を自らに課されていましたね)

    私は堀学長のような方と出会え幸福だと思います。
    社会で生きていくうえでそのお手本となる師がいることは
    幸福なことだと思っています。
    自らの未熟さを乗り越え、力をつけ成長した姿をご報告できる事を楽しみにしております。

    寒さ厳しき折り、御身体をくれぐれもご自愛下さいませ。

    追伸、
    本日より思うところがあり(44歳にして)碁盤一式を購入し、囲碁に挑戦する
    ことにしました。ど素人で具体的な目標はまだ決まっていませんが、力をつけて
    DISに参加させて頂ける日を楽しみにしています。

    投稿者: 和賀 公威

  • 堀義人様
    たいへん興味深く読ませていただきました。
    ダボス会議から長男の受験、プールの話と。
    昨日のダボス会議に参加される意味とあわせて
    コラム(文章)化することにより目的・目標を
    きちっと整理されている「普段」に感服いたします。

    とても勉強になります。
    ありがとうございます。

    投稿者: 目野正彦

  • 堀様

    臨場感あるダボス会議のご報告ありがとうございます。
    日々変化している世界について、大局観を持つのには最適な会合だと思います。
    大いにご自分のご意見を世界に発信して下さい。
    ご報告を楽しみにしています。

    投稿者:

  • 堀さん

    Weekend FTのワインのコラムは僕も良く読みます。
    BordeauxやBurgundyには、他には無い”行間の情緒”がありますよね。
    大自然との対話が上手なのでしょう。
    理屈や科学では解き明かせない大自然の神秘への畏敬の念、神道に通じるのでは?
    今度は、プールではなく自然の池で全裸で泳いでみて下さいね!
    今年の欧州はかなり寒い様ですが、引続きご自愛下さい。

    投稿者: 増岡聡一郎

  • 堀義人様

    冬の北ドイツを伝えていただきありがとうございます。
    私は昨年7月にロンドン経由(ANA)でフランクフルトに入り
    7泊8日の強行バス旅行をしてきました。
    南ドイツ(ロマンチック街道)とオーストリア(3泊)を訪れました。
    ウィーンではオーストリアゼロックス本社を訪問し、有名なパレスで
    バレエ・クラシック・オペラの一幕を鑑賞しました。

    昨日(1/27)はビジネスマインドマップのWarren Aebuukleさんと
    ダボス会議に参加してみえる堀代表のことを話しました。
    「世界を取り巻く諸問題」については関心があるようでした。報告を
    期待しています。

    JALの件は同感です。私は1/23-25 台湾への旅行でJALを利用しました。
    プールの話しはとても気になりました。堀さんの以前からのコラムに影響を
    受けてシェアウッドホテル20Fのプールで泳ぎました。
    北京からとカリフォルニアのビジネスマンと会話を交わしました。
    冷えた体にはサウナは最高ですね。最後にJALの乗員に声をかけてください。
    沈まぬ太陽の恩地委員長の代役として

    投稿者: 山下政嗣

  • グロービスグループ
    代表 堀義人 様

    コラムの配信、誠に有難うございます。
    いつも大変興味深く読ませて頂いており、ご活躍の様子を拝読するたびに
    起業者の一人として一つの指針を頂いていることに本当に力強い思いを抱くことが出
    来ます。

    正月の3が日のご子息3名のプロ棋士との対戦のテレビ放映を拝見しました。
    それぞれが大変個性的でありながら協力し合いながらプロと堂々と対戦する姿勢は
    本当に立派なお姿でした。最後の今年の目標への問いにも3人とも明確な目標に
    向けての宣言は、その場の雰囲気に答えただけではなく、既に目標に向けての実行が
    計画として当たり前に落とし込まれていると思わせる自信を感じました。

    放送が終了した後は、早速、我社の本年の計画をもう一度見直し、実行可能かどうか
    また、どのようにスタッフに周知させるか、その成果をクライアントまでに伝える為
    の手段に抜かりはないかを検討しました。
    思えばもう7年も前になりますか、堀代表が、当時名古屋にありました「東海ビジネ
    スドットコム」の朝食会にこられた時に始めてお会いしたのがきっかけでした。
    そのとき、「ソフトウェアの研究開発型の会社であれば企業から成長までに7億ほど
    は必要ですね。」と云われて、資金調達に苦労していました私にはそのような力もな

    ただ唖然とさせられたのを昨日の様に思い出します。
    基礎技術しかなく、商品が出来ていなかった時代から、受託を受けてきても収まらな
    かった時期を経て、商品が出来少しづつ売れ出した後に、危機のトラブルに終われた
    時代を過ぎ、やっと防衛省への入札が決まり大きく収益アップが期待できる時代が来
    たと思った矢先に、政権交代による補正予算の凍結があり本当に苦戦の連続です。
    そして、医療機関向けのソリューションも機器トラブルを解消し、医療機関からの発
    注書も頂いている現状ですが金融の引き締めで融資が受けられず苦戦中。
    成時が変ればよりスピード感を持って経済がよくなるのではと思いきや、かえって
    厳しさは増しているのが現状のような気がします。

    すいません、少し愚痴の様になってしまいましたが、堀代表の活躍のエネルギーを頂
    いて、私も諦めないで頑張るつもりです。
    何卒今後ともよろしくお願い申し上げます。

    投稿者: 高山仁惣

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