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2011年9月 5日 (月)

政治・社会 日本のビジョン「100の行動」: 10.ベンチャーが輩出する環境を醸成し、成長を促せ【経産4】

「なぜベンチャーが育たないのか?」という質問を良く受ける。僕は、この問いへの答え、そしてその対応策をとてもシンプルに捉えている。1)皆がベンチャーを起こしたいと思い、2)ベンチャーが成長しやすい生態系を創り、そして3)ベンチャー起業家予備軍に適切な教育を施しさえすれば良いのだ。これほど簡単な事は無い。

今まで、経産省や中小企業庁では、様々な支援策を実施してきた。だが、今までのベンチャーを「支援」する発想では、ベンチャーは生まれないし、例え輩出されても、ひ弱でダイナミックな強さを備えていない場合が多く、大きくは成長しない。重要なことは、何もしなくても自然にボコボコとベンチャー企業が生まれて来てしまう、そういう環境を「醸成」する発想が必要なのである。

経産省によると、わが国の企業(個人企業と会社企業)の開業率・廃業率は、1990年代以降、一貫して廃業率が開業率を上回っている。また、近年の新興市場での上場件数は、ピーク時の2006年188件から、2008年49件、2009年18件と大幅に減少している。さらに、近年のベンチャーキャピタル(VC)による年間投資額も、ピーク時の2006年2790億円から、2008年1366億円、2009年875億円と、大幅に減少しているのが現状である。燦々たる状況だ。

日本のノベーションを促進し、経済成長を図るには、産業を新たに生み出すベンチャー企業を輩出することで、富を産むサイクルを構築することが求められる。だが、現状では、全く逆の方向に向かっている。

では、どうすれば良いのだろうか?冒頭に述べた通りベンチャー企業を生み出す方法は、具体的には、以下3点だと考えている。

1. 価値観の醸成:「皆がベンチャーを起こしたいと思い」リスクテイクしたベンチャー起業家を称賛する文化・価値観を醸成する。
2. 生態系の醸成:「ベンチャーが成長しやすい生態系を創り」規制緩和、民間開放、ベンチャー・キャピタルの育成。
3. 人材の醸成:「ベンチャー起業家予備軍に適切な教育を施す」ベンチャー人材を育成し鍛える機関を増やす。

一つ一つの醸成に必要な施策を次の通り論じていこう。

1. 価値観の醸成:リスクテイクしたベンチャー起業家を称賛する文化・価値観を醸成せよ!

僕が学んだハーバード経営大学院では、優秀な人ほどベンチャーを志向する傾向にある。そこで学んだ、楽天の三木谷浩史氏、DeNAの南場智子氏、ライフネットの岩瀬大輔氏等が、ベンチャー起業家になったのは偶然ではない。その価値観に身を置くと、自らもリスクテイクし、新たな価値を社会に創造しなければならないのだ、と強く思うのである。

リスクテイク出来なかった人が、コンサルティング会社や投資銀行に進むと言っても、過言では無いほど明確なキャリアのピラミッドが存在する。明らかに、三木谷氏が興銀のまま、南場氏がマッキンゼーのまま、あるいは岩瀬氏がバイアウトファームに残って創出したであろう価値よりも、起業することにより社会にインパクトと価値を与えていると断言できよう。だからこそ、優秀な人材には、企業を飛び出し、リスクをとって創業して欲しいのだ。

日本ほど幼少期から競争的に育ってきた国は無い。僕の次男は、現在小学校6年生だが、中学受験の真っ最中で猛勉強中だ。日本人は学歴・職歴の競争を繰り返し、育ってきている。その点は、とても頼もしい。一方では、優秀な大学を経て、最終的なキャリア・ゴールが、政府や大企業、更には外資系投資銀行やコンサルティング会社で働くという人が多い。これでは、社会に新たな創造が生まれない。

一方、米国では、「優秀な人材は、リスクテイクして新たな価値を創造すべきだ」、という価値観がある。キャリアのピラミッドの頂点は、ベンチャー起業家であり、皆が成功した起業家を称賛する文化が存在する。

日本でも同様のキャリアのピラミッドを創り、「社会の中で一番優秀な人間は、リスクを取り、ベンチャーを志せ」、という文化や価値観ができると、自ずと皆が、ベンチャーを志向することになろう。すると社会に新たな価値が創造され、社会のダイナミズムが生まれ、新産業へとヒト・カネ・チエ等の資源がシフトしていくのだ。

その価値観の醸成や意識の変革の為に最も重要なのは、国のトップの言動だ。オバマ大統領は、シリコンバレーのベンチャー・キャピタリストの邸宅で、アップル社のスティーブ・ジョブズ氏とフェースブック社のマーク・ザッカーバーグ氏と夕食を共にし、その写真が公開された。これは、社会への一つのメッセージになっている。

英国のデイビッド・キャメロン首相は、2011年のダボス会議の演説で、「起業家精神を解き放て。欧州のベンチャー・キャピタルの投資額は、米国の1/7しかない」と檄を飛ばした。

一方、我が国の首相や経済産業大臣からは、「ベンチャー」の言葉が出てくることは殆どない。これでは価値観が変わらない。ベンチャーを増やすには、挑戦する人々を積極的に評価することにより、「社会意識・価値観の転換」をはかることが必要不可欠である。そのためには、各界のリーダー達から、リスクテイクすることを称賛するメッセージを積極的に発信されることを期待したい。

実は、この価値観の醸成が、僕が一番重要だと認識しているポイントである。どんな支援策よりも、リスクテイクし、挑戦することを称賛する文化を醸成することが肝要だ。これが醸成されたら、競争に慣れた日本人は、ベンチャーへと向かい、自ずと活力がある経済が生み出されるであろう。

2. 生態系の醸成:ベンチャーを容易に立ちあげられるエコシステムを醸成せよ!

1)規制緩和の更なる推進を!
「省庁の数だけビッグビジネスが眠っている」。各省庁が積極的に規制緩和をすれば、大きなビジネスが生まれるのだ。財務省の周りには、巨大な金融ビジネスが眠っている。総務省の周りには通信・運輸ビジネス。文科省の周りには、教育ベンチャー、更には農林水産省の周りには、アグリビジネスだ。政府は「官から民へ」の原則を徹底させ、特区制度・市場化テスト・PFI(Private Finance Initiative)を活用し、規制緩和を推進することが求められる。

特に規制が強い、医療・福祉、雇用・労働、教育、農業分野などについては、政府全体の規制改革を所掌している行政刷新会議が司令塔となり、抜本的な見直しと、各種行政手続きの簡素化・透明化を図る必要がある。さらに、行政を事前規制型から、自主・自律・自己責任原則による事後チェック型に転換する必要がある。

産業は、政府が守れば守る程、支援すれば支援するほど弱くなる。従い、規制緩和を促し、徹底的に自由な参入を促し、アニマル・スピリットを解き放ち、活性化した社会を創る必要があるのだ。

2)政府調達(入札制度)や日本版SBIRの改善を!

政府は、日本で一番大きな買い手である。その買い手が使う資金つまり、政府調達の約1~2割を、ベンチャー企業に振り分けることが望ましい。それだけで、新たな産業が育ちやすくなろう。そのためには、政府調達における実績主義、規模制限などの資格要件を弾力的に見直して、技術力や製品の性能を重視することにより、ベンチャー企業の商品・サービスに対し、積極的に参入機会を提供することが求められる。当然、周波数帯域の入札制度等、公平・公正且つ、納税者にメリットがある開放は、どんどん進めるべきである。

また、政府内では、NEDOや様々な部署から、或いは中小企業技術革新制度(日本版SBIR)を活用して、研究開発型のベンチャーに資金を多く投下している。だが、ベンチャー起業家側からは、残念ながら受け皿がわかりにくくなっているのが実情である。分かりやすく窓口を一本化するなどの施策が必要となる。

3)ベンチャー・キャピタルの質と量の拡充を
ベンチャーを育てるのが、ベンチャー・キャピタル(VC)の役割だ。起業家にVCから資金が投下され、経営ノウハウが伝授され、ネットワ―クが提供され、人材も紹介する。VCとは、ベンチャー企業の黒子として、カタリストの役割を果たす。そして、起業家は、厳しい環境の中で、戦っていくのだ。

日本では、VCの殆どが金融機関の関連会社ばかりだ。そして、一部の例外を除き、ベンチャーを育てるノウハウを持っていないのが実情だ。今、シリコンバレーの弁護士出身のジョン・ルース駐日米国大使が音頭をとりながら、「トモダチ財団」の構想が出始めている。そこで、日本から米国シリコンバレーへ、VCの「留学」をする案が上がっている。経産省でも同様の構想が再度浮上している。12年ほど前にあった経産省は、ベンチャー・キャピタリストを養成するプログラムを実施した。グロービスのVC部門の中心メンバーも実は、その制度を活用して、「短期留学」し学んできた。今の日本のVCを支える人材はその留学生が占めている。VC先進国の米国から学ぶことが多い。VC人材の育成が今望まれる。

さらに、VCへの資金提供の問題がある。米国のVC資金を支える3大資金源は、年金基金、大学基金、そして財団である。日本では、どうであろうか。日本の年金基金は、殆どが株式か国債で運用されている。日本の大学基金も文科省の通達で、元本保証(つまり国債)が基本となっている。財団も米国のビルゲイツ財団の様な巨額の資金を運用するものは見当たらない。

すると、日本の資金の出し手は自ずと銀行、企業、個人資産家のみに限定される。銀行は、BIS規制の関係で出しにくくなり、企業は株主からのプレッシャーで本業以外の投資は難しく、唯一残る個人資産家(殆どが自ら上場したベンチャー起業家)からの資金で繋いでいるのが、VCの現状である。

経済産業省では、中小企業基盤整備機構からのVCへのマッチング投資を行っている。これは、民間から集まった資金の分だけマッチング投資をすると言う理にかなったものである。是非これを継続して、独立系VCが多く立ち上がる環境を醸成して欲しい。

3. 人材の醸成:ベンチャー人材を育成し鍛える機関を増やせ!

ソムリエを育成する為にソムリエの学校があり、デザイナーを育成するのにもデザイン学校があり、将校を育成するのに士官学校があり、弁護士を育成するのにロースクールがある。同様に起業家や経営者を育成するためには、経営大学院(MBA)が必要となる。

起業家や経営者のみが、教育が必要ではないと言うことはありえない。そう言うと、「スティーブ・ジョブズ氏やマーク・ザッカーバーグ氏は、どうなのか」という反論を得るが、スティーブ・ジョブズ氏やザッカーバーグ氏の周りには、数多くの経営のプロが存在し、彼らのアイディアを実現し、経営するチームが存在する。それらの経営チームを含めた人材育成が重要なのだ。

一方、近年の日本の成功した起業家の多くは、孫正義氏、三木谷浩史氏等を筆頭として経営学を体系的に学んできている人が多い。これからは、発想力や気力ばかりでなく、知力が必要な時代となるのだ。高い起業家精神と、高い知力を元に、スピーディに立ち上げ、成長させて、競争を勝ち抜いていくことが必要なのだ。その成功した起業家が、社会に価値を提供し、社会の中でロールモデルとして扱われるような振る舞いを行い、その結果としてリスクテイクしたことが称賛される様な価値観・文化を醸成する必要があるのだ。

冒頭の「なぜベンチャーが育たないのか?」という質問に戻ろう。僕は、この問いへの答え、そしてその対応策をとてもシンプルに捉えている。1)皆がベンチャーを起こしたいと思い、2)ベンチャーが成長しやすい生態系を創り、そして3)ベンチャー起業家予備軍に適切な教育を施しさえすれば良いのだ。これほど簡単な事は無い。

それができれば、日本は活気にあふれ、新たな企業が継続的に生まれ、経済は成長することになろう。大和魂による価値創造への挑戦。これさえあれば、日本は継続的に成長するのだ。

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コメント(3)

  • グロービスは起業家輩出において偉大な存在だと思いますし、堀様も尊敬しております。起業促進提言にも概ね賛成です。しかし批判しなければならない点が一つだけあります。それは「権力による価値観の規範化」を志向されている点です。

    「その価値観の醸成や意識の変革の為に最も重要なのは、国のトップの言動だ」という言葉が問題です。民間での啓蒙・説得を通じた「価値観の醸成」は自由ですが、権力による価値観の規範化は支持できません。「価値観の醸成」の名の下に「キャリアのピラミッドの頂点は、ベンチャー起業家」というエリート主義的キャリア階級観(価値観)が規範化されることには反対します。

    ここで私が問題にしているのは「権力による価値観の規範化」という一点のみです。端的に私の希望を申し上げると、民間における啓蒙・説得を通じた「価値観の醸成」をお願いします。あくまで民間の活動に止めて頂きたい。決して「国のトップ」といった権力に頼らないで頂きたいということです。

    「社会の中で一番優秀な人間は、リスクを取り、ベンチャーを志せ」という文も気になりました。ここでの「一番優秀」という言葉は何を意味するのでしょうか。個別の会社における人事評価や、免許・認定・テストなどにおける「優秀さ」の明確な尺度はありえますが、「社会の中で一番優秀」とは具体的にどういう意味で、どういう尺度によるのでしょうか。

    とはいえ、私はこの点を問題にしているわけではないのです。どのような人物を「社会の中で一番優秀」と考え、発言なされようと自由です。ただし、その「優秀さ」の定義は、主観的な価値観に過ぎないということを指摘しておきます。言い換えると「万人が合意する『社会の中での優秀さの基準』は無い」ということです。

    そのように主観的で万人の合意は得られないような「優秀さ」の基準(価値観)を、「その価値観の醸成や意識の変革」のために「国のトップ」という権力を用いて正当化しようとすることには問題があります。首相や大臣の言動を通じて規範化するには、まだあまりにも普遍性の低い価値観です。

    まさにそのような個人的な主観を、社会において普遍的な「真理」へ向けて正当化することこそ、知識創造・イノベーションの本質である。先日のグロービスにおける公開セミナーで、野中郁次郎氏はそう仰いました。そういう「正当化」をまずは民間の領域で行うことが必要なのではないでしょうか。決して権力に頼ることなく。

    私は起業家であり、ほかの起業家と共に働いたり、投資に関わったりもしてきました。その立場から、堀様の起業促進提言に「水を差す」ようなことを申し上げなければならないのは残念です。しかし、強引に目的を達成しようとしても(まさにいま私がしているような)批判にさらされるでしょう。「ベンチャー界隈の奴等は手段を選ばず政治に取り入って上手いことやろうとしてる」と不正義の烙印を押されます。再びライブドア事件発生当時のようなベンチャー批判言説が盛り上がることになります。それは目的とは真逆の結果でしょう。我々がやらなければならないことは、批判されようがない公明正大な方法で、起業の啓蒙・説得を遂行することであるはずです。

    ここで私が問題にしているのは、上述の通り「権力による価値観の規範化」という一点のみであることを、改めて確認しておきます。決して「国のトップ」といった権力に頼らずに「価値観の醸成」をして頂きたい、というのが私の希望です。

    それでもなお「社会の中で一番優秀」という言葉には違和感を覚えますが、それは今回の議論とは関係ありません。私の批判対象は「優秀さ」の基準(価値観)それ自体ではありません。「権力による価値観の規範化」を批判しています。提言全体についてはむしろ共感するところが多いくらいです。この批判を建設的なものとして受け止めて頂ければ幸いです。

    投稿者: 石橋秀仁

  • ベンチャーをしているものです、また欧州、米国の大学で学んだものとして考え方を述べます。
    日本人の勉強
    1.日本は受験勉強の競争はすごいですが回答のある 答えをだすことには優秀ですが答えのないことに自分の発想で答えるのは少し苦手な気がします。
    発想の柔軟性も重要だと思います。

    日本人の価値観
    2.多くの日本人の価値観がいい大学からいい会社であり自分の人生を自分で切り開く精神は少し弱い気がします。いい大学からいい会社の安定した生き方に自分もあこがれていましたが今は自分ですべて切り開くベンチャーをしています。
    最後はその人の人生観だと思います。

    語学力
    3.自分は英語、スペイン語、イタリア語、ポルトガル語(ただいまフランス語習得中)を話し輸出、輸入業を営みますが。日本人の英語力は実践力はまだまだ弱い気がします。
    グローバル化時代英語は必要です。

    以上自分が感じたことです。
    yoshi.u

    投稿者: yoshi.u

  • >技術力や製品の性能を重視することにより、ベンチャー企業の商品・サービスに対し、積極的に参入機会を提供することが求められる。

    少なくとも、科学技術の分野に関しましては、現状の制度においても、技術力や製品の性能があれば、誰にでも参入の機会があります。


    問題は、技術力や製品の性能を得るまでに、ベンチャー企業の体力(資金・技術力)に限界があるということでしょう。


    研究開発型と申しましても、参入しやすい分野(IT関連?)、参入しにくい分野(エネルギー関連?)があり、NEDOの資金につきましても、受け皿がわかりにくくなっているのではなく、資金→リターンを考えた際、リターンを保証するまで体力がある分野が限られているということが現状かと思います。


    我が国において年金基金等でベンチャーを育てることは、育つ分野のベンチャーは育ちますが、分野によっては、より参入が困難になるケースが多くなると考えます。

    私は、税金等に頼らないベンチャーが、失敗を恐れずという観点から、日本には適していると思っております。

    投稿者: 星野毅

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