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2011年10月31日 (月)

政治・社会 日本のビジョン「100の行動」: 18.ソフト・パワー(文化力・教育力・観光力等)【外務4】

「ソフト・パワー」とは、「国家が軍事力や経済力等によらず、その国の文化や価値観に対する理解、共感、支持を得ることにより、他国を無理やり従わせるのではなく、むしろ味方につけて、国際社会からの信頼や発言力を獲得する力」のことである。

「ソフト・パワー」の概念を提唱したのは、米国のクリントン政権において、国家安全保障会議(NSC)議長や国防次官補などを歴任した、ハーバード大学大学院ケネディスクール教授のジョセフ・ナイ氏である。

ソフト・パワーは、1.文化、2.政治的な価値観、3.外交政策という3つの基本的な要素で構成されている。「文化」で重要なのは、「相手の国民が自国の文化に魅力を感じていること」である。

今日の国際社会において、軍事力や経済力等のハードパワーは引き続き重要な役割を果たすものの、軍事力を行使できる機会が減っていることもあり、相対的な重みは低下しつつある。一方で、高度情報化社会の到来、民主化の進展、NGO等の政府以外のプレイヤーの拡大等により、各国政府は、政府に働きかけるハードパワーに加えて、民衆に直接訴えかけ、文化的に魅了し、趣向や意識を変えるソフト・パワーを重視するようになりつつある。

本稿では、上述のソフト・パワーの3つの基本源泉の内、特に重要である「文化」に焦点を当てて、以下の通り、取るべき「行動」を提案したい。

1. クール・ジャパンの推進を!(文化力)

クール・ジャパンは、ゲーム・マンガ・アニメなどのコンテンツ、ファッション、日本食、デザイン、ロボット・環境技術などのハイテク製品にまで範囲が広がっている。これらのクール・ジャパン効果により、日本に対する関心は、経済的な重要度の低下にも拘わらず、低下していない。このクール・ジャパンが、今後の日本にとりとても重要な役割を果たす。なお、本件の詳細は、日本のビジョン「100の行動」: 13. Cool Japanの推進を 【経産7】 に記載しているので、本項では割愛する。http://blog.globis.co.jp/hori/2011/09/100-13-cool-jap

2. 「和」の発信と普及を!(文化力)

日本の文化資源には、クール・ジャパンだけではなく、伝統芸能(茶道、華道、歌舞伎など)、老舗工芸品(漆器・磁陶器など)、着物文化、更には日本の伝統的価値観や作法など、有形・無形の日本古来の伝統文化が多く存在している。これらの日本が誇るべき文化資産を積極的に再評価し、海外に発信し、ファンを増やすことが求められる。

そのためには、政府・在外公館での公式行事ならびに民間の主要イベント等の国際交流の場面には、日本の伝統文化を積極的に紹介することが求められる。

ちなみに、2011年11月3日開催の世界のリーダーが集う国際コンファレンスである「G1グローバル」では、ランチタイムには和太鼓、更にはフェアウェル・レセプションでは三味線や琴が演奏される。その前夜に開催される登壇者向けのレセプションでは、畳の和室が用意され、お寿司を振る舞いながら、狩野常信の掛け軸も披露される。

日本の伝統文化や伝統的価値観の紹介を、大学の教育プログラムに授業として組み込むことや、課外活動に導入することを検討するのも一案である。グロービス経営大学院では、武士道精神、更には日本で進化した陽明学をクラスに取り入れている。

歌舞伎や能、狂言、茶道、華道、武道といった日本の伝統文化を、外国人により良く理解してもらうために、多言語に翻訳し、映像による解説を充実させ、ネットで配信するなど、様々な方法を検討すべきであろう。さらに、スーパー歌舞伎のように、現代の観客に合った形で伝統芸能を進化させるなどの試みも重要であろう。

何よりも、「外交官」たる日本人一人一人が、和に接する生き方をすることが重要なのであろう。2012年のグロービス経営大学院の入学式では、学長である筆者は、紋付き袴姿で式辞を述べることをここに決意し、宣言する。

3. 「留学生30万人計画」の推進を!(教育力)

「留学生30万人計画」は、日本を開かれた国とし、ヒト・モノ・カネ、情報の流れを拡大するため、2020年を目途に30万人の留学生受入れを目指すものである。ソフト・パワーの観点からも非常に重要であり、以下の施策が求められる。

(1)留学生にとって魅力ある大学づくりを!
原則英語のみで学位取得が可能となるコースを大幅に増加させることが求められる。また、交換留学、単位互換、ダブルディグリーなど国際的な大学間の共同・連携や短期留学、サマースクールなどの交流促進などにより、日本の大学の魅力度向上を図ることも重要である。さらに、専門科目の外国人教員による教育研究水準の向上や、9月入学なども検討すべきである。グロービス経営大学院も、2012年9月より英語での全日制のMBA課程をスタートさせる。日本への留学生増の一助となれば幸いである。

(2)留学卒業生の日本社会での受入れを!
留学生が日本社会に定着し活躍するためには、インターンシップや採用等の企業側の意識改革と受入れ体制の整備、在留資格の明確化や取扱いの弾力化、就職活動のための在留期間の延長の検討など、産学官が連携した就職支援策が求められる。一方で、帰国留学生については、同窓会活動の支援などで、フォローアップの充実を図り、日本の理解者・支援者として自国で活躍してもらうことが重要である。

4. 日本語教育の世界への展開と普及を(教育力)

世界的な「言語戦争」(孔子学院、British Council、など)の中での、日本語教育への戦略的投資が日本のソフトパワー向上には、不可欠となる。そのためには、以下が必要と考える。

(1)親しみやすい教材を!
クール・ジャパンにより日本語に興味を持った層を積極的に取り込むために、民間メディアなどが有するマンガやアニメのコンテンツを活用した魅力ある教材を制作したり、テレビによる国際放送で日本語・英語二重音声の番組や、英語による日本語講座を放送したりすることが求められる。「ポケモンで学ぶ日本語」教材等があれば、更に日本語を学ぶ人が増えるであろう。

(2)シニア・ボランティアの活用を!
海外の教育現場に、日本語教育を担う人材を派遣することで、草の根レベルでの教育機会を提供することが求められる。その際には、青年海外協力隊やJETプログラムなどの成功事例を参考にするとともに、新たな日本語教育の担い手として、シニア・ボランティアの活用も検討すべきである。

(3)わかりやすい試験を!
国際交流基金や日本貿易振興機構など各種日本語試験を実施してきた関係機関は、文部科学省と協力連携の上で、国際的な日本語能力の指標となり、留学・就職などに役立つ試験となるように改善すべきであろう。特に、TOEICやTOEFLのように成績を得点表示することや、年複数回実施することにより、受験者の利便性を向上させることが求められる。

5. 日本の教育産業の世界への展開と普及を(教育力)

公文式教室(日本公文教育研究会)は、1974年に米国・ニューヨークで算数教室を開設して以来、独自の教育方法が諸外国から高く評価されており、現在では世界45の国と地域で約440万人(日本では148万人)の子供達が学習している。

また、スズキ・メソード(Suzuki method)は、音楽を通じて心豊かな人間を育てることを目的とする教育法の一つであり、才能教育研究会よって諸外国で教育活動が展開されている。現在では世界46ヵ国に約40万人の子供達が学習をしている。

さらに、日本郵船がフィリピンで商船大学をつくり、現地の人たちに教育機会を提供するとともに採用している。企業としての優秀な海外人材確保のための長期戦略ではあるが、教育産業だけでなく、一般企業でもグローバルに教育の機会を提供しているケースとして紹介する。

このように日本には世界に十分通用する、誇るべき教育機関が存在する。特にこれらの教育機関や手法は、次世代を担う子供達や職業人を対象にしていることから、若年時より日本への理解に大いに寄与することが期待される。

今後は、日本国内の様々な教育機関が各分野で、グローバルに展開することを期待したい。また、そのような挑戦に対して、官民学がオールジャパンで協力連携することを期待したい。

6. ビジット・ジャパンの推進を!(観光力)

「ビジット・ジャパン・キャンペーン」は、訪日外国人旅行者数を将来的に3000万人にする目標を掲げ、先ず第1期として、2013年までに1500万人の目標達成を目指している。

日本にとっての最大の観光資源は、日本人によるホスピタリティ文化(「気遣い」「おもてなし力」)である。今後は、観光産業についての産学官連携による高等教育の充実や、観光マネジメントの強化など人的資源の充実が求められる。

エコツーリズム、グリーン・ツーリズム、その他自然観光(温泉など)、文化観光、産業観光、医療観光、スポーツ観光(スキーなど)など、様々な観光資源が日本には存在する。数多くの外国人を魅了することができよう。インバウンド観光客の増は滞留人口の増加、という経済成長へのプラス効果も期待できる。特に、低コスト航空会社(LCC)、オープンスカイ、空港民営化の三本柱とあいまっての、地方活性化へのメリットは、大きい。なお、観光に関しては、国土交通省の「行動」で詳述することとしたいので、ここでは割愛する。

今まで見て来たように、日本のソフト・パワーを高める手法は、クール・ジャパンや伝統芸能等の「文化力」。日本の大学、日本語教育、日本の教育機関のグローバル化による「教育力」。さらには、「観光力」等によって担われている。一番重要なことは、僕ら日本人一人一人が「外交官」である、という意識を持ち、僕らの所属する組織が、「日本を好きになってもらう日本代表の機関である」という自覚を持ち、政府はあくまでも、旗を振りその応援をする役割であるという主体的意識を国民や企業が持つことであろう。

筆者は、高校二年を修了した時に豪州に一年間留学をした。留学生は「日本文化の伝道師」である、という意識を強く持たされた。事実海外に行くと、日本のことを良く聞かれる。日本人として答えられないのは恥ずかしいので、日本のことを多く学んだ。日本のソフト・パワーを高めるためには、政治家に頼るのでなく、僕ら国民一人一人の努力によって達成できるものと思う。一人一人が外国人と接した時に、日本のソフト・パワーが試されるのである。是非一人一人が「行動」をしていこうではないか。

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コメント(3)

  • 堀さんもクール・ジャパンの推進のなかで外国人ネットワークの活用を提言されてますが、コンテンツ自体でも外国コンテンツの日本プロデュースパターンを増やせたらと密かに思ってます。

    アメリカのソフトパワーは世界のコンテンツを集める場づくりにもあるのかなと。
    イチローがMLBに行き、アメリカで納税し、NHKが放映権料をMLBに支払う。

    世界中の有能な漫画家、アニメクリエーターを日本の会社がプロデュースするモデル。
    できれば、日本を著作権特区にしてしまう。著作権からの源泉なんて消費税に比べれば
    いくらにもならないので、こんなん廃止し、著作権を生み出せる才能を日本に集める。
    著作権自体よりも周辺のプロデュース収入のほうが高いですから、日本に本社のある
    プロデュース会社から税収あげればいい。

    日本をもって世界に出るだけでない、世界をプロデュースする日本という
    ソフトパワーの活用はいかがでしょう。

    英治出版株式会社 代表取締役 原田英治

    投稿者: 原田英治

  • クール・ジャパンにつきましては以前にコメントしました為、ここでは「和」の発信について私の思うことを述べさせて頂きたいと思います。


    私は仕事上、外国出張先がヨーロッパになることが多いですが、スケジュールの空く休日は、美術館等に行きます。
    特に、ヨーロッパは歴史についての関心が高く、日本文化について尋ねられた際に答えられないこともあります。


    文化に関心が強い国へ我々ができることは、日本文化を海外に発信して活動することもできますし、また日本に観光で来て頂いて文化に触れて頂く活動もできるかと思います。

    そのためには、我々自身が、自分の国の文化と、相手の国の文化を良く知る必要があると考えています。
    すべての文化について学ぶ必要は無く、興味のある分野に関して、豊富な知識を得ておけば良いかと思っております。


    ビジネスでの雑談で日本の話になった際、ちょっとした日本文化の話が、観光に結びつくかもしれません。
    小さな活動ですが、できることから始めるのが重要という気持ちです。

    投稿者: 星野毅

  • いつも、teitter、ブログを拝見し刺激を頂いています。
    ゲーム・マンガ・アニメなどのコンテンツについて
    私の友人で、映画プロデューサー(政府の委員会に参加する人物)がおり、以前、酒を飲んでいる時、次のような話が出ました。(かなり、酔っていた為、私の記憶にあやふやな部分がありますが)
    「日本のエンターテインメントは、実はかなりひどい状況になっている。
     アニメは、ピクサーに代表されるように世界では今や3Dが主流、未だに2Dが主流 の日本アニメは難しい状況になっている。ここでもジョブスに日本はやられている。
     コンテンツ、コンテンツというが、出てくるのは70年代80年代90年代の漫画が 中心。日本国内での評価は別として、海外で評価される新しいクリエーターが育って いない。宮崎駿の千と千尋もアカデミー賞は取ったが、アメリカでの興業的は???
     映画、たまに海外で賞は取るものの、興業的には全体として成り立っていない。アジ アNO1の映画祭は釜山国際映画祭になってしまった。東京国際映画祭は六本木ヒルズ 辺りででちょこまかやっている程度。」
    この友人、映画関係のクリエーターを育てようと、国策でやっている韓国、中国に対抗する為、社団法人を立ち上げようと頑張ったこともあったのですが、結局、経産省からはしごを外され、とん挫してしまいました。自民党から民主党に変わった頃でした。
    日本があたかもアニメのハリウッドになるような錯覚を覚えてしまう、政治家の発言やマスコミをうのみにしてはいけないのかもしれません。しっかりしないと、TVや音響機器の二の舞になってしまいます。
    素晴らしいソフトパワーがあることに間違いはないのですから、最大限にソフトパワーを生かせるようになるといいですね。それには、ある時、ある部分では国が、ある時、ある部分ではVCなどの資本がが必要になってくるのではないでしょうか?

    投稿者: S小M中

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