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2016年10月26日 (水)

日本人・アジア人・地球人 「働き方改革」自分が働きたい会社にしよう

「僕はこの会社で働きたいか?」。創業時より、常に基軸に置いてきたのはこの視点だった。かつて大企業で働いていたときの経験から、グロービスでは「自分が嫌だと思うことは一切導入しない」と決めていた。自分が働きたいと思う会社にしようと思ったのだ。

十数年も前のことだが、ヤマト運輸で「宅急便」事業を始めた生前の小倉昌男さんが、キリスト教信者の会でスピーチされた。スピーチ後に、僕は手を挙げて質問した。「聖書の教えで経営に最も役に立った教えは何ですか?」

彼の返答は「『何事でも人々からしてほしいと望むことは、人々にもそのとおりにせよ』だよ。この黄金律が経営の肝だと思っている」だった。僕はキリスト教信者ではないが、この考え方はすっと心に入ってきた。

年功序列の給与体系、島の先端に上司がいる座席配置、忘年会で新入社員に課す芸、全員参加の社員旅行、画一的なスーツ。僕が商社で働いていた時、こういう慣行が嫌だった。一番嫌だったのは上司が偉そうに振る舞い、乱暴な言葉遣いをしていたことだ。

グロービスでは上司も部下も関係なく、相手を「さん」付けで呼ぶ。僕も「堀さん」と呼ばれる。社長室もない。社員と壁をつくりたくないのだ。業務デスクも皆平等だ。管理職も一般社員もアルバイトスタッフも、大きさは皆同じ。「ランチ・ギャザリング」と称したランチ会や、全員参加の泊まり込み研修を年4回実施する。さらにオフィスの内部に階段を設けることで、別々のフロアにいる社員が気軽にコミュニケーションできるようにしている。

グロービスでは年功序列の給与体系をとらない。社員は自分の欲しい年俸を申告する。会社は(1)MBO(目標管理制度)(2)360度評価(上司、部下、同僚など周囲からの評価)(3)業績評価――を基にプロ野球選手の契約更改のように年俸を提示する。社員は提示された額に対して不服を申し立てたり、契約の交渉相手を変えたりできる。それがフェアだと思うからだ。

社員旅行も商社時代に嫌いだったことの1つだ。全員強制参加で、自由時間がない。新人は芸をしなければならず、女性社員は暗に男性社員にお酌することを期待される。そんな旧態依然とした慣行にうんざりしていた。

もっとも、グロービスにも社員旅行はある。「社員旅行ぐらいできる会社にしてよ」というスタッフの要望があったからだ。強制は嫌なので、自由参加にした。現地集合、現地解散で拘束時間は夕食の2時間のみだ。家族の同行も自由にした。

家族を大事にしたいから、僕は社員の配偶者が誕生日を迎える時に花をプレゼントすることにしている。グロービスの社員を支えてくれているパートナーには、感謝の気持ちを伝えたいからだ。

最近ではもっと突っ込んだ「働き方改革」を率先して実践している。在宅勤務、完全フレックス制、夏休み2週間推奨、長期有給休暇のサバティカル制度、充実した育児休暇制度。そして、服装も勤務時間も原則自由だ。フリーアドレスにして、オフィスもカフェと同じような環境になりつつある。社外活動や講演・執筆活動も積極的に支援している。人事制度は、社員の要望に応じて、臨機応変に変えているのだ。

努力の成果が実り、最近では辞めていった社員が戻ってくる事例が多くなってきた。「やっぱりグロービスが良いから」と口ぐちに言ってくれる。とてもうれしい言葉だ。

「自分がやってほしいことは他人にもやってあげなさい。して欲しくないことは他人にしてはいけないよ」と、僕は5人の息子に言い続けてきた。会社も同じだ。自分が働きたいと思える会社にする。シンプルだが、とても大切なことだと思う。今後とも地道に努力したい。

※この記事は日経産業新聞で2016年10月21日に掲載されたものです。
日本経済新聞社の許諾の元、転載しています。

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