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1998年12月 6日 (日)

個人 生きていく方向性(その1) 〜ヒト・カネ・経営ノウハウの社会基盤の確立〜

僕は、今人生の大きな岐路に差し掛かっている。住友商事を退職して、グロービスを立ち上げたときも、夜が眠れないほどに悩んだ。が、今くだそうとしている意思決定は、僕の社会人人生において創業に継いで2番目に重要なものであることが理解できている。その僕の考えのプロセスをコラムの読者と共有化しようと思って今パソコンに向った(ちょっと重い話になりそうだ(~~;;(~~;;)。

僕は、住友商事を退職するに当って、ベンチャーの世界に身を投げ出す前に、自分自身に何度も問い掛けた。「グロービスを通して、何を実現したいと考えているのか?」、「どの様な価値を社会に与えたいのか?」、「なぜやるのか?」等である。つまり、「僕の人生とは、何の為にあるのか?」、「何を成し遂げたいと思っているのか?」を一生懸命に考えた。僕のそれまでの経験を通して得た人生の哲学と、僕の目の前にある命題と、自分の将来の姿をイメージしながら、それら考えてきたことをグロービスのビジョンとミッションという形に徐々に言葉に変えていった。

折角生きていくなら、またどうせ冒険をするなら、大いなるビジョンを掲げ、多くの仲間と共鳴しあえるミッションを提示して、それらに従って生きていこうと思った。

以下は、国民金融公庫に掲載された論文からの抜粋である。この論文の中に、僕のビジョンの形成されるに至った考え方が書かれている。このコラムを読んでいる読者に、僕が今から書こうとしているテーマを理解して頂く上で重要だと思ったので、転載することとした。

■米国留学で考えたこと
 僕が、米国のハーバード大学在学中、日米の経済のダイナミズムの違いを認識して危機感を持ったときに、僕の進んでいくべき方向性を感じ始めていた。時は1989年、バブル経済の絶頂期であった。日本が"Japan as Number 1"であると自信を持ち、ジャパン・マネーが大挙して、米国に押し寄せてきた時である。ソニーがコロンビアピクチャーを買収し、三菱地所がロックフェラーセンターを買取ったさなかに、僕は、以下思案に暮れていた。

「日本は、本当に強いのだろうか?」、「米国では、違う次元で新たな競争優位の源泉が生み出されているのではないだろうか?」、「競争力の再逆転は起こりはしないだろうか?」、と。そこで、日米経済における競争優位の源泉を分析してみた。

<日本の強み-「資本集約型産業」>
日本が強い産業として挙げられるのは、繊維、鉄鋼、自動車、家電、半導体など、素材・組立型の産業があげられる。ソニー、ホンダ、新日鉄、日立などの大企業である。これら産業における競争ルールは、「品質の高い商品を安価で大量に製造・販売する」ということであり、「資本集約型産業(モノづくり)」であるといえる。このような産業で日本が築いてきた競争優位の源泉は、高度な生産能力、均質かつ勤勉な労働力、含み経営等による安価な資金調達コストなどであり、また輸出・国内市場の成長がこれを促進した。

これら企業による経済の成長モデルの特徴は、研究開発・製造・販売まで一貫して企業内で実施されており、ピラミッド型組織を擁しており、大量の資本を必要とする大企業が中心となって牽引してきた。この成長モデルをここでは「大企業型成長モデル」と定義する。

<米国の強み-「知識集約型産業」>
 一方、米国が強い産業として挙げられるのは、ソフトウェア、情報技術、バイオテクノロジーなどの産業があげられる。マイクロソフト、インテル、アップル、サンマイクロシステムなどのベンチャー企業である。これら産業における競争ルールは、「クリエイティビティー、スピード、およびデファクト・スタンダード」であり、「知識集約型産業(ソフト指向)」であるといえる。このような産業で米国が築いてきた競争優位の源泉は、高度な個人能力とベンチャーが育つ環境そのもの(ヒト、カネ、経営ノウハウなどのビジネスインフラが整っている)である。

この経済の成長モデルの特徴は、少数の起業家精神を持ったクリエイティブな集団が核となり、外部資源を有効活用しながら、事業領域や組織機能を絞り込み、組織をフラットにネットワーク型にしてスピーディーな意思決定を行うことであり、ベンチャー企業が中心となる。ここではこの成長モデルを「ベンチャー型成長モデル」と定義する。

ここで注目しなくてはならないのは、工業(ハード)の時代から情報・サービス(ソフト)の時代へのパラダイム変化とグローバル化の流れである。資本集約型産業の競争では、日本の製品は大量に世界で売られ、日本の大企業は圧倒的に勝ってきたし、今後ともNO.1の地位は不変と思われる。しかし、産業構造が変革して、今は新しい市場・新しい経済が起こってきてるのである。その分野には、全く違う競争ルールが存在しており、その分野では、米国型のベンチャー企業は、圧倒的に優位である。

現在、成長している分野は、知識創造型産業であることは、歴然としているので、この分野で優位に立てなければ、日本の将来は暗くなる。新しい分野でも日本が優位に立つ為には、これからやってくる新たな社会にマッチする知識創造型産業によって経済を引っ張っていく「ベンチャー型成長モデル」への転換が急務といえよう。

■ベンチャー企業の成長に不可欠な「ビジネスインフラ」
ここで「ベンチャー型成長モデル」を構成するために必要な3つの基本要件、「ヒト」「カネ」「経営ノウハウ」について、日米とを対比することにより、日本において今後何が必要となるのか見てみよう。これらは、企業の急激な成長を維持するために必要な事業環境基盤(ビジネスインフラ)となるものである。

「ヒト」:起業家及びマネジメントチームとなりうる優秀な人材のストックの面とフローの面で日本は大きく遅れをとっていると言わざるをえない。今後の複雑・多様化している経営環境に於いては、体系的な経営教育を受けていない起業家が成功するのは困難になるであろう。米国では、それら体系的な経営教育を提供するビジネススクール(経営大学院:MBA)が全米に数百もあり、高度な経営教育が施されている。さらに、それら人材の流動性も高いため、優れたスタートアップベンチャーでは、優秀なマネジメントチームを組みやすい。一方日本では、ビジネススクールはせいぜい10校程度であり、人材の流動化も遅々として進んでいないのが現状である。

「カネ」:創業前或いは創業時に投資をして、インキュベーション(経営支援)までも請け負うベンチャーキャピタルの数では、日本はアメリカに遠く及ばない。ベンチャーキャピタルは通常、インキュベーション型ベンチャーキャピタル(VC)とファイナンス型ベンチャーキャピタルに分類される。ファイナンス型とは、通常成長中期から後期の公開前企業に株主資本を提供する金融機関が中心となり設立されたベンチャーキャピタルである。一方、インキュベーション型VCは通常創業期と成長初期に投資をして、経営支援まで行うハイリスク・ハイリターン型のVCである。
ファイナンス型が数多く存在しても、インキュベーション型が存在しなければ、新たなベンチャーは生まれにくい。日本では、このインキュベーション型を行うベンチャーキャピタルが、殆ど存在しないのが実状である。

「経営ノウハウ」:ベンチャーに必要なものは、ヒト・カネの面のみならず、ビジョン・戦略の策定、効率的な組織・管理体制の構築、研究開発・マーケティング・セールス等における市場ニーズに合致した商品の販売などの実行可能な戦略および計画に関するノウハウである。これには、やはり戦略立案・実施支援のプロフェッショナルよりの支援が欠かせないが、日本でのスタートアップ支援を行う専門スタッフ(コンサルタント、弁護士、会計士)は、数・質の両面でまだまだ不足している状況である。

 上記3つのビジネスインフラの部分では、日本の実状は不十分であるといわざるを得ない。「ヒト」の面における経営教育および優秀な人材のベンチャーへの斡旋。「カネ」の面でのスタートアップへの投資。「経営ノウハウ」の面でのスタートアップ企業のマネジメントノウハウ。これらのビジネスインフラの整備は、「ベンチャー型成長モデル」を構築するためには、不可欠な要素であると言えよう。

■グロービスのビジョン:「ヒト・カネ・経営ノウハウの面で、ビジネスインフラを創り、ビジネス・クリエーション(創造)とイノベーション(変革)を継続的に行う」。

従って、グロービスは、民間の立場でそれらのインフラを構築すべく、上記ビジョンのもと、1992年に創業された。これらを他に先駆けて民間の立場で設立・運営することにより、他社も追随して、民間の力でそのインフラ(社会基盤)を創ることができると考えた。先ずは、ヒトの面から着手して、そして経営ノウハウの面へと動き、そして、最終的にはカネの面でのインフラを構築しようと考えた。先ずは、ビジネススクールを創り、出版事業や企業内研修事業を手がけて、今では、グロービス・キャピタルによるカネの面にまで、領域を広げてきたのだ。

現在、ヒトの面では、グロービス・マネジメント・スクールがあり、既に年間4000人以上の優秀な学生が、東京と大阪と通信教育により、夜間と土日に学習している。米国のハーバード大学と提携してケースメソッドを日本語で実施しており、英国の国立大学であるレスター大学と提携して日本にいながらにしてMBAを発行できるカリキュラムになっている。

経営ノウハウの面では、既に13冊以上の実用的な経営書を世に出して、100万部程度売れている。また、企業に向けて経営ノウハウを組織学習を通して、注入する事業も行っており、数多くの大企業の変革を手助けしている。

カネの面では、グロービスキャピタル部門で、ビジネス創造ファンドを組成して、インキュベーション型のVCを運営している。既に、10社に投資をしており、2社のスタートアップ企業と6社のアーリーステージ企業に出資をしている。

つまり、グロービスの活動そのものにより、「ベンチャー型成長モデル」に必要な社会基盤を確立しようと考えているのだ。


引用終わり。その2に続く。

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