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2005年5月27日 (金)

組織人 アジアNo.1のビジネススクール(MBA)を目指して

英国にAMBAという非営利団体がある。AMBAとは、Association of MBAの略で、主に経営大学院を運営している大学に、認証書(Certificate)を発行する役割を担っている団体である。そのAMBAの年次総会が今年はロンドンで行われたので、参加してみることにした。

5月18日の夕方から、AMBAの年次総会がスタートした。参加者は、130名程度である。ロシア、フィンランド、フランス、ドイツ、ノルウェイ、ポルトガル、チリ、ブラジル、カナダ、アメリカ、香港などから、各大学院の学長やMBAプログラムのディレクタークラスの方が参加していた。INSEAD、ロンドン・ビジネス・スクール、サンダーバード、NYUなど、名の通ったビジネススクールも多数参加していた。

実は月曜日から、MBAウィークは、スタートしていた。月曜日は、MBAフェアである。MBA志望者が集い、各大学が説明する機会を設けたものである。いわゆるMBAの展示会みたいなもので、火曜日には、マーケティング・コミュニケーション・セミナーが行われた。そして、水曜日の夕方からMBAコンファレンスが開催され、僕はここから参加することにした。

日本からの参加校は、グロービスだけであった。僕らが参加する目的は、3つである。海外のビジネススクールとのネットワーキング、ベストプラクティスを学ぶこと、そして、Certificateを受けることを検討することである。グロービスは今年6月、構造改革特区を活用して、文部科学省に経営大学院の設置申請を出すことにした。いよいよ僕らは、正式にMBAの学位を発行する大学院に向けて、進みだすことになったのである。

ただ、文科省の認可は、国内でしか通用しない。今後は、日本のビジネススクールも海外の認証を取得すべく動き出すのではないかと思われる。グロービスは、昨年よりこのMBAコンファレンスに参加しているが、今年は僕自身がこの目で状況を確認しようと思い、自らコンファレンスに参加することにしたのだ。

16:30より、AMBA(Association of MBA)の会長が30分ほどスピーチをした。スピーチは英国風のウィットに富んだものであった。その後、認証書(Certificate)の授与式があった。6つのビジネススクールが授与されていた。その後開かれたレセプションで、僕は積極的にネットワーキングすることにした。ブラジル、ポルトガル、ドイツ、モントリオール、ニュージーランド、香港、英国の経営大学院とのネットワークがたちどころに出来上がった。提携話もすぐに持ち上がる。これがコンファレンスの醍醐味かと思われた。

参加期間中、ずっと何かが違う、という違和感を感じていた。僕が今まで参加してきたコンファレンスは、主にベンチャーキャピタル系、ハイテクインダストリー系、YEO (Young Entrepreneurs' Oraganization)の経営者系や、ダボス会議のような政治家・大企業経営者が集まるものであった。それぞれのコンファレンスには、ピリピリとした緊張感をあり、著名なスピーカーが、エネルギッシュにイノベーティブな考え方を披露していた。 しかし、このMBAコンファレンスの参加者は、基本的には教授、学者やアドミニストレーターである。時間も多少ルーズであり、ゆっくりとした中で進行していった。

参加者の顔つきや出で立ちも違っていた。他の会合では、スーツが基本であり、カジュアルであってもボタンダウンシャツにチノパンという雰囲気であったが、こちらは地味なシャツに薄茶系のジャケットという出で立ちが多かった。年齢層も、比較的年配の方が主流で、年配の女性の方も多い。連日ビジネスの最前線でCEOとして戦ったり、生きるか死ぬかの経営を任されているベンチャー起業家、多額のお金を運用しているキャピタリストあるいは常にマスコミや選挙民の審判を受ける政治家が集まる会合とは、雰囲気が自ずと違ってくる。いい意味でも悪い意味でものんびりして地味なのである。

そのコンファレンスの場では、2つの課題が共有化されていた。一つが、MBA市場の飽和状態に伴う、過当競争である。既に英国だけでも、120程度のビジネススクールがあり、需要に対して供給過剰のようである。そこで優秀な受講生の獲得競争となる。「21世紀に向けての生存戦略」と題するセッションがあったぐらいである。そして、もう一つが、ビジネススクールのアカデミズムへの痛烈な批判である。コンサルタントの方が来てスピーチしたが、「ビジネススクールの教授が書いている論文は、ゴミ(CRAP)であって全く役に立たない」、と堂々と皆の前で公言していた。

そのような環境の下で、のんびりとコンファレンスが進んでいく。MBAの差別化戦略、コミュニケーションやアドミッションのベストプラクティス、アルムナイネットワークの構築方法、新しい教育メソドロジー、リーダーシップ教育の潮流などが語られるのだ。参加者の殆どは、経営学のph.D(経営学博士)を持っているので、喋るのは上手だし、ロジカルである。

僕は、ph.Dを持っている方々が、ビジネスを教えるのに最適なのかどうかが、わからないでいる。本来は、優秀な経営者やビジネスの最前線にいるビジネスパーソンが教えるのが実学に近いのでは、と思うからだ。ただ、認証(Accreditation)取得には、ph.Dを持った教授の数が重要なファクターになっている。これは欧米の認証機関の潮流でもある。グロービスは、この点が弱い。そもそも創設者の僕も、ph.Dを持っていないのである。これから2,3年間の時間的投資をして、ph.Dを取りに行くべきかどうかも悩ましいところである。

コンファレンスを通して感じたことは、「グロービスは結構いい線いっているなあ」、ということである。カリキュラム構成、ファカルティ(講師)、受講生の質、ティーチングメソッド、ケース作成プロジェクトなどのプロジェクトベースのカリキュラム、リーダーシップ開発セッションなど、充実してきている。さらには、アルムナイ・ネットワーク、グロービス・マネジメント・バンク(GMB)などのキャリアサービス、経営道場などの課外講義、グロービス・クラブなどのスピーカーセッション、あすか会議などの年次総会など、カリキュラム以外での学びの場、ネットワーク構築の場、そしてキャリア支援などのメニューも豊富になってきている。あとは、受講生がそれを活用するかしないかにかかってきている。

ただ、僕らのビジョンである「アジアでNo,1のビジネススクール」になるためには、更にやるべきことはいくつかあった。大きいところでは、フルタイムのMBAコースの開設、英語での授業、リサーチ機能の強化、世界に向けての発信、博士課程の増設、世界における評価の確立、さらには一旦休刊としたグロービス・マネジメント・レビュー(GMR)の復活などである。これらを、中・長期的に見据えながら、一歩一歩確実に前に進めていく必要がある。グロービスを選択した受講生のためにも、やるべきことは全てやるべきだと思っている。

一方、すぐに実行に移せそうなヒントもあった。例えば、以下の項目である。

1)プロジェクト・ベースド・ラーニングの導入:
グロービスの強みである「創造と変革」を活かした、ベンチャー・プロジェクト制度(仮称)。つまり、受講生の方にグロービス・キャピタル・パートナーズ(GCP)の投資先企業の経営に触れる機会をつくる。大企業やコンサルティング企業にいる受講生は、必ずしもベンチャー企業の現場を知っているとは言えない。その方々に、創造と変革の現場に触れる機会を提供する、というものである。総合(修了)プロジェクトの選択肢の一つとして、拡充していきたい。

2)新しいティーチング・メソドロジーの導入:
新たなコースとして、プレゼンテーション、キャリアマネジメント、ファシリテーションコース、リーダー開発セッションなどを開設する予定である。これらのコース群を総称して、「グロービス・リーダーズ・ワークショップ(GLW)」と呼ぼうと思っている。これに加えて新たなティーチング方法を グロービス・マネジメント・スクール(GMS)でも導入できないか考えたい。既に、企業向け研修では、「自社課題」というコンサルティングアプローチを活用した教育制度を導入している。その手法をGMSにも導入できないか。

3)女性向けサポート体制の強化:
グロービスでは、既に保育施設(託児所) を受講生向けに無料で提供している。育児によって学習機会が阻害されないように、受講生の提案に従い、今年から導入しているものである。それ以外にも、「女性のキャリアを考える会」というアルムナイ活動も充実している。これに加えて、女性向けの奨学制度の充実、女性向けのキャリアサービスの強化、成功した女性受講生のキャリアモデルの紹介などで、たくさんの女性の方々がグロービスで学びやすくする方法が無いかを真剣に検討してみたい。

4)テクノロジープログラムの強化:
GCPのハイテク投資の実績をGMSのカリキュラムにフィードバックする方法を考えたい。他のビジネススクールで、ベンチャーキャピタルをここまで成功 させている事例は、世界でも例が無い。そのノウハウをもっとカリキュラムの拡充に使えないだろうか。僕も、今回初めてベンチャーキャピタルに関する論文を執筆した。既にMOT概論、テクノロジー・マネジメント、ベンチャーキャピタル&ファイナンスなどがあるが、これを更に強化できないか。

いずれにせよ、グロービスが強みとしている「創造と変革」の分野を更に強化して、 男女問わずストレス無く学べるような環境を、数多くの受講生に提供したいと思っている。

アジアNo,1に向けてやるべきことが多くあることが、さらに良く認識できた。現在、グロービスは、 2004年7月発表、日経産業新聞のビジネス・スクールランキングでは、国内第3位であった。僕らの上には、慶応大学や一橋大学がある。グロービスの受講生のためにも、また、一生懸命に教えてくれているファカルティ(講師)の方々のためにも、僕らが更に精進し、確実にアジアNo.1に向けて一歩一歩前進していきたいと思っている。

もともと30年計画で始めている。現在、創設してから13年経ったので、残り17年間だ。ゼロからここま来た道のりを考えると、これからの17年間の方が、簡単なのではと思えている。

5月20日(金)の17:30過ぎの最後のセッションを終えてすぐにヒースローエクスプレスに乗り、英国を発つことにした。

「グロービスMBAは、アジアNO,1の学位になる」と、コンファレンスの最中、僕はそう強く思い続けていた。


2005年5月20日
ロンドンから帰国するフライトの中で執筆
堀義人

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    受信 : 2005年5月27日 (金) 22時38分

コメント(1)

  • 興味深く拝見させていただきました。私も名ばかりの米国大学MBAを20代の時に取得しましたが、権威ある国内・海外の大学のものと異なり、無名海外大学のレベルの低い他人に自信をもって言えないMBAとなっています。しかし、少なからず勉強したことは今日のビジネスライフに役立っており、時間とお金を費やしたことは後悔していません。アジア№1のMBA取得ビジネススクールとしての今後の飛躍は、注目しております。また、何らかの形で自身もまだまだ勉強したいと考えております。

    投稿者: 黒羽 幸一

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