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2007年6月 5日 (火)

組織人 欧州視察団Ⅱ〜モスクワの風景

翌朝、時差の影響もあり朝5時頃に目が覚めた。窓の外はもう既に明るかっ た。この季節になると暗い夜の時間がほとんど無いのだという。日本との時差は、夏は5時間である。もう既に東京では仕事が始まっていた。メールチェックをして、一段落してからまたベッドに戻ることにした。

朝8時半に視察団とともに朝食を済ませる。ビュッフェスタイルだが、キャビアが置いてあった。「レッド・キャビア」と称して、「いくら」も置いてあった。視察団と打ち合わせをして、 予定を決めることにした。コンファレンスは、17時スタートなので、それまでの時間モスクワ観光に充てることにした。先ずは、プーシキン美術館に行き、救世主キリスト聖堂を見学した。午後からは、クレムリンに訪問である。タクシーがなかなかつかまらないので、ほとんどが地下鉄と徒歩での移動である。

クレムリンで、有名な武器庫とダイヤモンド庫を見学する。そして、クレムリンの外壁をモスクワ川沿いに半周して、赤の広場に向かう。ボクロフスキー聖堂の中を見学して、レーニン廟を横目に見ながら赤の広場を横切り、グム百貨店に入った。モスクワは日差しも強く予想外に暑いので、この百貨店で帽子を購入した。国立博物館の横を通って、ボリショイ劇場を見学する。あいにく改装中で全容を拝むことができなかった。当然ロシア料理も堪能した。定番のボルシチ、ビーフストロガノフなどであった。

この日は、短時間で見れるだけ見ようという、いわゆる「詰め込み型」の観光をしたことになる。僕は、こういう観光はあまり好きではないのだが、初めてのモスクワで、しかも今度いつ来れるかわからない。行かなかったことに後悔したくはないのである。

僕は後日、現地の友達に念には念を入れて、次の質問をしてみることにした。 この友達とは、昨年の9月にシンガポールで開催されたフォーブスのコンファレンスで出会い、意気投合して、モスクワで再会することを誓ったのである。

「モスクワで絶対見逃してはならないものは、何ですか?」、と質問してみた。

彼からの答えは、以下の順番であった。

(1)「先ずは、美しいロシア美人を見逃してはいけないよ」、と。さすがに僕の友達である。リストの一番最初がロシア美人かぁ。当然、彼がそう言ったので、後日責任を持って、夜のロシア美人観光ツアーを企画してもらった。
(2)クレムリン(世界遺産)
(3)ボクロフスキー聖堂やノヴォデヴィッチ修道院(世界遺産)
(4)ボリショイ劇場
(5)そして、トレチャコフ美術館だと。

僕はその言葉に忠実に従い、モスクワ滞在中に全てを観ることにした。だが、しっかりとコンファレンスにも参加しなければならないので、一つ一つに時間を余り使えなかった。

せっかくの機会なので、モスクワ滞在中にボリショイ劇場のバレエを観に行くことにした。それにしても、ロシアのバレリーナの美しさ、そして踊りの繊細さ、且つダイナミックさは、思わず息を呑むほどだ。観客のバレエを観る目も肥えている。ブラボーの嵐、カーテンコール、そして再度登場することを催促する拍手のリズム。どれをとってもピカイチである。

ただ、幕の合間の休憩時間中に、ビックリすることがあったのだ。僕はいつものようにシャンパンを注文しようと思い並んでいた。シャンパンのリストを見ると、200という数字と1600という数字が並んでいた。僕は、グラスが200ルーブル(約1000円)、ボトルが、1600ルーブル(約8000円)なのだと思い、グラスのシャンパンを注文しようと思った。

直前にいる中年女性の順番となり、グラスのシャンパンを3杯注文するのが見えた。レジの電光表示では、1600が出てきて3でかけて、4800となり、消費税なのか30が加わり、合計4830ルーブルと出てきた。その女性 は何のためらいもなく5000ルーブル札を出し、170ルーブルを受け取ったのである。200と1600というのは、200ccが1600ルーブルとういうことが後でわかった。

なんと一杯8000円もするグラスのシャンパンを平然と飲んでいるのである。シャンパン3杯に、合計で2万4千円も払っているのである。僕は唖然として、開いた口が塞がらなかった。僕の順番となり、カウンターにいるウェイターが注文を聞いてくれたが、僕はとっさに後ろに並んでいる方に順番を譲り、その列から逃げるようにして抜け出していた。

皆、8000円もするグラス・シャンパンを飲んでいるのである。「何かがおかしい」。そう確信した瞬間である。バブル時代の東京ですら、こんなことは無かったと思う。

後日、前述の友達と共に、ロシア美人が集うバーをハシゴしている間に、その状況を話した。彼は、「ロシアは景気がいいから、今は土地や株の値上がりが激しく、皆裕福になっているからだ」、という。「エルメスのバッグなどは、香港で買うのとモスクワで買うのでは5倍も違う」、と。5倍は強調だと思うが、高級品はとても高い。一方では、貧困層は、まだまだ多いのである。

そして値上がりの一例として、彼の体験談を語ってくれた。「2000年に買ったマンションが、既に5倍の値段がついている。この1-2年だけでも、倍になっているんだ」、と説明してくれた。

僕は、日本のバブルと同じ状況であることを感じ取ったので、投資家である彼に、日本でのバブルはなぜ起こって、結局どうなったのかを説明してあげることにした。友達は元弁護士だが、今はファンドマネジャーのようなことをしているので、投資環境に関しては、何でも吸収しようという意欲を持っているのである。当然英語はペラペラである。

僕は、今のロシアの景気について、石油やガス、そして地下資源や水産資源によって外貨を稼ぎ、国内では、株と土地の値上がりによって、景気が保たれている気がしてならなかった。給与水準を聞いても、特に高いわけではない、という。ちなみに彼は、ロシアの株式は全て売却済みだという。

ロシア人のメンタリティも激変していた。ロシア全体が教会などの宗教を弾圧してきた共産主義から、思想の自由も保障された市場経済に移行しているのである。その過程に起こりがちな、拝金主義的な風潮がかなり強く見えてきている。中国で起きているのと同じような状況である。お金が全てで、お金を持っている人が偉い、という価値観がはびこるのである。

ロシアでは、「ゴールデン・ユー」と呼ばれる40前後のお金持ちと官僚が集う場所と、その次のクラスが集う場所、そして貧困層が通う場所とが、しっかりと分かれてしまっているのだという。日本の格差問題とは次元が違う、とてつもなくデカイ格差が生じているのである。

このゴールデン・ユーは、国有資産を安く買い取り、石油関連で富を得て、ビリオネア(億万長者)になっているのである。そしてロシア経済の成長と株・土地高を背景に海外の資産を買い漁っているのである。英国サッカー、プレミア・リーグのチェルシーなども、そのゴールデン・ユーの一人であるビリオネアが買ったのだ。

しかし、これは長続きするとは、到底思えない。中国経済よりも危うさを感じるのは僕だけであろうか。

シャンパンとキャビアを楽しみにしてきたのに、夜は高くて手が出ない。結局、ビールとウオッカ・トニックを飲みながら、ロシアの夜を過ごすことになった。日本人の方がお金持ちの筈なのに不思議な感覚である。でも、ロシア人女性の美しさを観賞するのには、お金がかからないのである。(^^)

モスクワのナイトツアーを堪能して、友達の運転手つきのポルシェ・カイエンでホテルまで送り届けてもらった。さすがにその時間になると天空も真っ暗であった。


2007年6月1日
成田行きの飛行機の中で執筆
堀義人

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コメント(5)

  • 私はソ連東欧崩壊直後のモスクワに行きましたが、レポートを拝読して、大きな変化を知ることができました。

    投稿者: IN

  • はじめまして。
    ちょうどモスクワから昨日帰って参りましたのでコメントさせていただきます!クレムリンの向かいに7月open予定のリッツカールトンモスクワ。そのオープニングセレモニーに招待され夢のひとつであったホテルの客いちばんのり!を果たしました!!セレモニーでは夜のクレムリンに花火が打ち上げられ、75kg分のキャビアが振舞われ、ゲストも錚々たるメンバーが招かれていました。
    やはりカザフの方たちはoil moneyで破格のビリオネアーです。モスクワの人々は不動産。堀先生はあの格差社会は長くは続かないとのご意見ですがあのクレイジーな世界はもう少し続くと思います。今尚、ヨーロッパ、アメリカの投資家たちが狙ってますよ〜。
    PS
    それにしてもロシア美人はスラッとして肌が綺麗ですね。モデルとストリッパー、共に美しいのにその違いは・・・!?
    ・・やはり運でしょうか???

    投稿者: Sachi

  • ロシアはロシアのまま、理解しなければならない。
    西側の尺度で判断しようとしてはいけない、ということかと思います。
    大統領選を前に、政権内部での利権対立により重要な判断ができなくなり、それでもロシアはロシアとして強く振る舞わなければならない、強くなければロシアではなくなり、それはロシアの崩壊を、ロシア国民を路頭に迷わすことになる。
    歴史的に、地政学的に、ロシアを知ることは、我が国にとっても、とても重要なことだと思います。
    TB、ありがとうございました。

    投稿者: みやびい

  • 欧州視察団 – モスクワ滞在記 楽しく拝読させていただきました。ありがとうございました!
    実はグロービスの方々にはこれまで色々とお世話になりましたので、この場をお借りしまして御礼方々メールをさせていただきます。ブログへのコメントという返信の趣旨には反しますがご容赦くださいませ。

    小生は、掘さんがそのひどさを実体験されたロシアの現場で実際にビジネスに携わっている人間です。1997-2002年に最初のロシア駐在(モスクワ)を経験しました。ロシアは98年8月の金融危機でズタズタになりましたが、その以前から国債の乱発等でニセバブルの様相を呈していたようなところがありました。生産財顧客に機械機器を販売するビジネスの現場では、顧客から自社製品(石油製品、化学肥料など)とのバーター決済を本気で要求されることがしばしばあり、苦笑ものでした。その後の危機によるルーブル切下げと、その半年後に始まった原油価格の上昇(99年初では確かバレル最安値9ドル)で経済は著しい回復を見せました。

    2002年に日本に帰任して、何を血迷ったかStockholm School of Economicsのロシア分校(サンクトペテルブルク)のEMBAを受験しました。会社の有休を取りながら東京=サンクトを往復。受講料12,000ドルに対して旅費交通費のほうが高くついてしまう自分のバカな選択に頭を抱え、確か03年11月の堀代表の“MBAは何を提供するのか?”セミナーに参加、貴重なアドバイスを頂戴したことを覚えています。といっても途中でやめる選択肢はありえず、一応卒業。恐らくロシアでMBAを取った第一号の日本人ではないかと思います – まったく宣伝価値も市場価値もありませんが(笑)。その受講料も5年後の今では24,900ユーロにはねあがっている事実を知ると、今回のロシアバブルは健在だと感じます。

    すぐに転職動機に駆られGMBに登録。岡島代表やコンサルの渡辺さんから非常に懇切、的確なキャリアアドバイスをいただきました。結局、キャリアは2軸(“ロシア”と“経営マネジメント”)を徹底的に生かすことが転職では得策であると同時に、己の本心に正直な選択であると確信し、GMBからいただいたいくつかのオファーを蹴り(笑)、ロシア関連の仕事で転職先を見つけました。1年間本社で働き、この2月から“学びの故郷、学友人脈の宝庫”サンクトペテルブルクに2回目の駐在をしています。今回は自動車業界+工場建設・経営 というハードルの高い仕事で非常にワクワクしています。

    モスクワ、サンクト共にご覧いただいた通り、これ以上クルマを生産・販売することが悪と感じられるような大渋滞都市ですが、欧州でレクサスの販売台数がトップの国はロシアとのことです。ここサンクトに現地生産で先行するFORDを追う形で、トヨタ、日産、GM、ついにはスズキまでが名乗りをあげ、最近では“ロシアのデトロイト”と揶揄されています。

    気になることは、自動車業界は今後BRICsを初めとした国々で生産展開を活発化させると思いますが、後続進出していく2次、3次の部品メーカーはじめ、その経営陣(日本人出向者)の異文化適合+経営能力は大丈夫か?と思います。異文化でのビジネスという意味では、ロシアではご存知の通り、“ビジネスへの政治介入”と“曖昧模糊とした許認可制度” – これらに対する事前調査やリスクマネジメントを怠ると大変苦戦しそうな気がします(現に苦戦していますが)。経営能力については申し上げるまでもないと思います。

    堀さんが書かれている通り、ロシアは貧富二極差が著しい社会ですが、その貧富差がソ連崩壊後の最近10〜15年という短期間に生まれたというところが特徴だと思います。いわゆる起業家というよりは政治的バックグラウンドやコネをもった起業家がしてやったり!で、Business Ethicsというものは皆無と見て取れます。プーチン政権下で国家は安定したように見えますが、“明日は(政治次第で)どうなるかわからない”がソ連時代からのロシア国民感情であり、人々の思考行動様式は非常にshort term orientedです。加えてコミュニティ感覚に乏しく、エゴというかself-centeredな社会です。家電は行渡ったので、次はクルマとマイホームという欲求構図はどこかの国のいつかの世代と類似している気もしますが。そのマイホームもElite Apartmentという類の物件が、たかだかサンクト郊外で3000ドル/m2しますから、日本人でよかった!とつくづく思ってしまいます。8%のルーブル定期預金でシコシコお小遣いを貯めるも、マンション投資はやっぱり怖くてできませんね。資源・素材に支えられた経済社会ですから、バブルがまたいつはじけてもおかしくないと思います。

    まとまりのない文章ですが、こうして儲からない出世しない(笑)ロシアのキャリアで、でも楽しく気概をもってビジネスに挑戦し続けていられるのは、グロービスから提供された情報・アドバイスが常に論理的かつ明快で、自分のキャリア検討に参考になっただけでなく、確信を与えてくれたからだと思います。

    この場を借りて感謝申し上げますと共に、グロービスの益々のご発展を祈念申し上げます。

    6月12日(ロシアの日)
    サンクトペテルブルクにて
    やっぱり日本の女性が一番素敵だと思う日本男児より

    投稿者: SSE-SPB

  • ロシアのアントレプレナー(起業家精神)に関する記事を作成する際に、参考にさせて頂きました。ありがとうございました。

    投稿者: 田中

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