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2010年2月12日 (金)

個人 インドへの精神修行の旅〜第1章「期待感」

「人生のフォーカス〜太古の知恵を現代に(Life in Focus, Ancient Wisdom-Modern times)」というイベント名を、YPO(Young President Organization)のウェブサイトで発見した。「何だろう?」と思い、詳しくその中身を調べてみた。

「菜食主義の生活を送り、早朝と夕刻のヨガとスポーツ、そしてインド哲学のレクチャーを受けて、グループ討議を行う」という内容であった。主催者は、インドのムンバイ郊外にあるVedanta Academyで、その創始者が講義を行う形式である。

Vendantaとは、Veda とAnta(End)の造語である。Veda(ベーダ)とは、インド古代の哲学書である。Antaは、その後半部分を指し、ウパニシャッド哲学やバカダット・ギーダなどがその教えの中心となる。仏陀は、そのウパニシャッド哲学やギーダから多くの学びを得ている。Swami Parthasarathy通称Swamiji(スワミジ)と呼ばれる創始者は、既に82歳だが、クリケットを楽しむほど元気であると、その解説に書かれていた。

注:スワミジとは、「尊敬する導師」という意味である。従い、このコラムでは、そのままスワミジという呼称で統一して表現するものとする。

普通に考えると怪しいのだが、YPOが主催している。しかも、過去4回実施して、毎回の評価が、10点中9.5を上回っているのだ。「これは、面白そうだ」と直感的に思った。スケジュールを見ると、ちょうどダボス会議が終わり、長男の受験も終了した後だ。妻に了解をもらい、2月6日発で2月12日までの一週間のインド出張が決まったのである。

成田のラウンジで、Twitterに「アスペンで西洋哲学を学んだので、今度はインドで東洋哲学を学びにいく番だ」とつぶやく。グロービスでは、トップが率先して新しい学びを開拓していく。そして良いものは、他の仲間にも紹介していくのだ。アスペンには、既に日米双方合わせると4、5名が参加している。

ムンバイへの直行便に乗り、福岡で給油して、ムンバイに着く。アカデミー(aashram、アシュラム)へは、7日の朝4時からしかチェックインできないので、空港の近くに一泊する。

Twitterでの朝のつぶやき。「ムンバイのホテルで一泳ぎ。ここでプールの水をうっかり飲むとえらいことになる。ついつい慎重に息継ぎをする。プールサイドには、カラスが応援に。プールの向こうは、スラム街が続く。スラム街ほど、低炭素な代替可能な社会は無い。アバターの映画のように、もしかしたら僕らの方が、異常なのか」

そして、朝9時にホテルを出て、ムンバイから100キロ北東、デカン高原に位置するアカデミーに向かう。約2時間の陸路の移動だ。これが辛いのだ。ムンバイ市内は、カオス(混沌)そのものである。歩行者は、勝手に車道に入る。物乞いは、車が止まるたびに寄ってくる。車線移動は、予告無しで行われる。ホーンを鳴らしながら、歩行者や車をよけて、右へ左へと車は蛇行するのである。あまりにも不快なので、東京の自宅に電話する。だが、通信事情がとても悪く、途切れ途切れでしかつながらない。結局10回以上切れてはかけてを、繰り返すことになるのである。

暫くすると、車は市内を離れて平地に入った。ここで、やっと電波が届きやすくなる。しかし、すぐに山道に入った。追い越し車線が日本のように決まっていないのか、遅い車が、左車線、真ん中車線、右車線に散在している。車は、そのトラックを、ジグザグに追い抜いていくのだ。トラックの後ろには、家畜が乗っているのかと思いきや、人間がトラックの荷台に立ってこちらを覗いているのである。間違いなく、一つのトラックには10人以上が荷台に乗っているのである。

そうこうするうちに、アカデミーに到着した。着くなり、部屋の中を案内された。当然、電話やテレビなどの文明の利器は、何も無い。あるのは、ベッドとデスクだけである。幸いトイレとシャワーは部屋に付いていた。

一通り、部屋の説明を受けて、インターネットへの接続を試みるために、ビジネスセンター(とは言っても、裸足で地べたに座る程度のシンプルなものである)に向かった。ここで、このYPOアカデミーを始めた南アフリカのウォルター氏と出会った。彼が、こう説明してくれた。

年間ほどハーバード・ビジネス・スクールでYPOのエグゼクティブ・プログラムに参加していたが、その中で、偶然スワミジの話を聞いた。ビジネスを成長させることよりも、人間を成長させることが重要ではないかと思い、4年前にこのプログラムを始めた。コンセプトは、このアカデミーにて3年間で学ぶものを1週間に凝縮する、というものだ。最初は、参加者が2名、その次は14名、そして昨年が30名で、今年が41名の参加者となった」、と。

僕は、インターネットの接続が確認できた後に、部屋に戻り、スケジュールと参加者を確認した。参加者は、南アフリカが1/3を占めていた。インドからは、10名近くで、後は米国、イギリス、アイルランド、そしてUAE、オマーンであった。インドより東のアジアからは、僕のみが参加していた。おそらく日本人で初めての参加者ではないかと思う。

部屋の中で、備え付けのユニフォームに着替える。ユニフォームとは、白い絹でできたインド風の民族衣装である。上がクルタ(Kurta)、下がパジャマ(Pyjama)と呼ばれるものである。そして、マーラ(Mala)と呼ばれる小さな木製のビーズがつながっているネックレス状のものを首からかける。これで雪駄を履いているのが、ユニフォームである。事前にサイズを伝えているので、部屋にはぴったりに縫製されたものが、上下3セット用意されていた。

正午に芝生でレセプションが開かれた。このイベントを通して、お酒や肉類は、厳禁である。レモネードを振舞われながら、多くの方々と挨拶を交わした。「日本からですか?日本は寒いでしょう」と質問されたのでが、「先週はダボスにいたので、そこの気候とは大違いですよ」と伝えた。インドは冬、とはいっても、20〜25度以上の温度がある。朝、屋外のプールで泳いでいたぐらいだ。とても過ごしやすい。氷点下15度のダボスから比べたら40度の温度差があるのだ。

13時に食堂に入る。そこでプロトコルを教わった。先ず、全員でお祈りをする(これが、サンスクリット語らしいのだが、意味がさっぱりわからない)。手を洗い、洗面所の下に設置された細長い収納棚から、自分の部屋番号を確認して、食事の5点セット、つまり、ステンレス製のお皿、コップ、お椀、フォークとスプーンとを自らが取り出す。そして、それらを持ち、食事を取りにいく。ブッフェ形式といえば聞こえがいいが、基本的には、パサパサの細長いインド風のお米に、ほうれん草とチーズのカレーをかけ、お椀にお豆が入ったスープを入れて、ジャガイモサラダをお米の横に乗せるだけである。座席は、自由である。参加者と自己紹介をしながら、談笑する。そして、食事が終わると、デザートである。これが、あのインド固有の甘い固形物なのだ。

全て食べ終わってから、先ほどの洗面台に行き、自らが使った5点セットを洗い、ナプキンでふき取り、部屋番号が書いてある細長い棚に自らが収納するのである。つまり、毎回同じ5点セットを使い、自分が洗い、自分が出し入れするのである。何と合理的な仕組みだろ。自分が、洗うのを怠けると、自分が汚いお皿を使うのである。さすがに、これこそが、持続可能な生活である。無駄がほとんど無い。

YPOの参加者は、基本的には資産家ばかりである。ムンバイから参加した人は、夫婦でヘリコプターでアカデミーに参上した。当然、家には複数人の召使がいる。でも、そのような資産家でも、同じ格好をして、自らがお皿を取り出し、食事を盛り、そして、同じお皿を自ら洗い、毎日使うのである。

たまたま、そのヘリコプターの紳士は、僕が13年前に、僕が、インドでYEOのムンバイ支部をつくるときに出会った、古くからの友人であった。僕が、1996年から97年にかけて、アジアでつくったYEO(現EO)のネットワークは、語源のとおり「網の目」のように、世界のいたるところで、友人を捕捉できるようになっているのだ。彼との再会は、もう10年以上ぶりである。彼も僕のことを覚えていてくれて、とても嬉しかった。

いったん解散した後に、休憩に入る。

Twitter 「ムンバイから2時間陸路移動して、アシュラムに到着。絹製の白の上下に着替えて、昼食をすませ、キャンパスツアーへ。近代社会とあまりにも違うので、カルチャーショックに。簡素かつ倹約を大事にする共同社会。これは、日本の美徳だったはず。ただ、目の前を飛ぶ蚊さえいなければ、もっと快適かも」。

オリエンテーションを受けて、キャンパスツアーを行った。このアカデミーでは、3年間の間に、ウパニシャッド哲学やギーダを学ぶ。現在、80名ほどの在校生がおり、全寮制で休みもまったく無いという。寮を訪問したが、6畳間ぐらいの広さに、二つのベッドがおいてあるだけのとてもシンプルなものであった。持ち込む荷物も少ない。ここで徹底的に規律と倹約をたたみこまれるのだ。
創始者のスワミジの家も訪問できた。ガレージには、なぜだかベンツとBMWが誇らしげに置いてあった。「UAEの首長の一人からのプレゼント」なのだと言う。スワミジの部屋もシンプルである。一つの部屋に、寝室、居間、書斎の機能が凝縮しているのである。浴室も訪問できた。全てが機能的に収納されていた。この「参加者に全てを最初に見せる」という姿勢には、感服させられる。

アカデミーの事務所を訪問したが、生徒が事務所で働いているのには、ビックリした。アカデミーでは、全てを生徒が運営するのだという。まさに、共同体(コミュニティ)的生活である。キッチンを訪問したら、さらにビックリさせられた。何と、生徒が食事を作っているのである。さっき、オリエンテーションの際に、挨拶をしたユニフォーム姿の生徒達が、私服に着替えてキッチンで調理しているのである。一応、「5つ星ホテルのシェフがスーパーバイズしているよ」、との説明を受けたが、やはりちょっと心配になる(案の定、翌日腹を下すことになった)。

学費は、スポンサーシップとして納入される。もしもお金が無ければ、無料でもいいのだという。スポンサーシップ費は、比較的高いが、パンフレットには、「寄付として所得税から控除できる」と書いてあった。賢い方法だと思った。

学生の99.5%は、卒業後3年間は、就職をしないで、教団(アカデミー)のために、働くのだという。

以下がアカデミーでの典型的な生活である。

朝4時起床、祈祷後、自習時間がある。朝6時過ぎからは、ヨガ、ジョギング、バスケットボールなどのスポーツを楽しみ、体の規律を保ち、育成することを目的としている。

朝8時30分に朝食。その後スワミジによるレクチャーを受け、13時に昼食をとり、午後は休憩や共同体作業がある。夕方に祈祷後、再度レクチャーだ。そして、夜8時から夕食で、夜9時に就寝である。夜9時半には、外の門も閉まるのだという。

多くの学生と話をした、必然的にスワミジの話題になる。インドから参加している「資産家」達も、スワミジに対しては、尊敬を通り越して、憧憬しているかのよう口調である。期待が高まるままに、第一日目のスワミジのレクチャーが始まった。

2010年2月7日
ベダンタアカデミーにて執筆
堀義人

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