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2011年9月20日 (火)

政治・社会 日本のビジョン「100の行動」: 12.「知財戦略の推進を」【経産6】

「中国版新幹線、米で特許申請準備 日中紛争の火種に」という記事が日本経済新聞で掲載された。最近ではグーグルによる、モトローラの携帯端末事業部門の高額な買収が話題になった。目的は、ハードでもソフトでもなくモトローラが所有している「特許・知財」だといわれている。

新幹線の事例でも分かる通り、日本は優れた技術や、映画、音楽、アニメといったコンテンツを保有しているにもかかわらず、こうした知的資産ビジネスの国際競争力は総じて高くない。技術力やコンテンツ力は国際競争力の必要条件ではあるが、十分条件ではない。技術・コンテンツ産業のグローバル化を進めるには、こうした知的資産を活用する「知財戦略」=政策が不可欠である。

スイスのIMD(経営開発国際研究所)の2009年度版国際競争力年鑑によると、日本の「科学的インフラ」は米国に次ぐ世界第2位であり研究・技術水準は高く評価されている。しかしながら、「産学間の知識移転」は第17位と
低く、研究成果の「市場化」に失敗している。また、科学技術要覧や総務省によると、2008年の技術輸出額は日本が約1.8兆円であるのに対し米国は4倍近い約6.8兆円、コンテンツの収入額でも日本の海外収入比率が約4.3%(約0.6兆円)と低いのと対照的に、米国の海外収入比率は約17%(約8.5兆円)であり、日本のコンテンツ産業のグローバル化は立ち遅れている。

さらに、2008年国際標準化機構(ISO:International Organization for Standardization)での、国別の幹事国引受け数をみると独国132件、米国128件、英国77件、仏国75件、日本 59件であり、日本は「フレームワーク作り」でもリーダーシップをとれていない。

こうした視点から、政府が今後取り組むべき政策、企業が取るべき施策を、以下の通り提案する。基本的なキーワードは、「スピード向上」、「国際化への対応」、そして、「インターネット時代への対応」である。その三つを早急
に実現することが望ましい。


1. 特許の審査手続きの迅速化・効率化、審査請求制度の廃止を!

2010年度の特許審査の順番待ち期間は、約28.7カ月であり、長期化(悪化)傾向に歯止めがかかっていない(2005年度:25.7カ月⇒2006年度:26.7カ月⇒2007年度:28.3カ月)。このことは、日本の国際競争力を棄損させる深刻な状況といえる。政府は2006年の「経済成長戦略大綱」に、2013年までに11カ月までに短縮して、世界最高水準を達成すると目標を掲げていたが、まさに風前の灯の状況である。

良い技術は速やかに権利化されることが出願者にとって、また、特許となるか否かを注目している他のライバル企業にとっても権利化の趨勢が早く分かることが望ましい。権利関係の行方が不透明な期間が長いことは国民経済にとってマイナスであり、特許審査の迅速化を速やかに実現するべきである。

また、我が国の特許制度では出願後、3年以内に請求があってはじめて特許を認めるかどうかの審査に入る。上記の特許審査の順番待ち期間は、この審査請求の時点から実際に審査に着手するまでの待ち期間であって、出願時点からの期間ではない。こうした制度の結果、企業などは先行する技術の調査を十分にせずに「とりあえず出願」、あとで審査請求するかどうかを考えるということになる。権利の行方が長期間にわたり未確定の出願が膨大な数にのぼることはとても健全な特許制度とはいえない。審査請求制度は廃止すべきである。企業が発明を厳選して出願し、特許庁が速やかに審査を終えるようにすれば、世界でいち早く発明を公的に承認する「日本の特許」の存在価値が向上、先端技術情報がより日本に集まるようになって国内での技術開発を刺激することになる。

米国政府は出願から特許権付与まで平均で約34カ月かかる審査体制を改善する法案を成立させた。審査迅速化に向け経産省・特許庁に対し、先行技術調査の民間外注を拡大するための登録調査機関(現在は9機関)への新規参入促進、重要技術分野での学術文献DB(特許と論文情報の統合検索を可能とする特許公報照会システム)を備えた特許電子図書館(IPDL)の機能強化などの必要な措置の実行を求める。


2. グローバル化への対応:政府は国際連携による知財保護の強化・企業は国際標準の獲得を!

厳しい国際競争の中で、日本の国富の源泉でもある知財の権利取得と保護の強化を図るには、外国の特許庁と協力連携した特許制度の国際共通化の推進と、特にアジア諸国における模倣品対策の強化が不可欠である。具体的には、主要国間での特許審査の迅速化、EPA交渉などを活用した知的財産制度の国際環境整備、各国の特許出願手続きの共通化・簡素化などを目指す「特許法条約」への早期加盟、2010年に大筋合意された 「模倣品・海賊版拡散防止条約」(ACTA)の早期発効、官民合同模倣品対策合同ミッションの派遣拡大などが求められる。

今後、世界規模で大きな市場拡大が期待でき、日本が優れた技術を有する「環境・エネルギー分野」、「医療・介護分野」、例えば、スマートグリッド、電気自動車、水関連技術、生活支援ロボット、鉄道インフラなどに選択と集中を行い、オール・ジャパン(産官学横断的)で、国際標準の獲得を推進すべきである。その際に、従来の公的な標準化機関で策定する「デジュール標準」のみに限定するのではなく、DVD規格などのように関心のある企業などが国際的なフォーラムを結成して策定する「フォーラム標準」も含めて、政府は総合的に国際標準化活動を支援
することが求められる。


3. インターネット時代に合わせた著作権制度の確立を!

現行の著作権制度はユーザーの利便性を軽視し、技術革新のなかで本来的に「縮小傾向にある既存市場」を過度に保護する内容となっている。このような「縮み志向」の法制度により、国内コンテンツ産業が総体として、じり貧になるだけでなく、iPadのような世界のユーザーをワクワクさせる新しい「プラットフォーム」が日本発で生まれない土壌になっているのではないだろうか。

例えば、現行の著作権法では、紙媒体の書籍の購入者が書籍を自分の携帯情報端末で見て楽しむために、電子化の代行事業者(「自炊代行」)に書籍データのPDF化などを委託することに対して、「著者の了解を得ていない電子化作業は著作権侵害」といった主張さえ、できるような規定ぶりになっている。このような主張が1つの法解釈として大真面目になされるような現行法は、ユーザー軽視の法制度と言わざるを得ない。著作権法を所管する文化庁には猛省を求める。

日本で検索エンジンが、著作権法改正で合法化されたのは、2010年になってからである。ユーザーの利便性を高める新サービスをなかなか認めない著作権法は早急に改める必要がある。インターネット時代に合わせた世界最先端の「フェアユース制度」(「公正な利用」と裁判官が判断すれば著作権侵害とはしない規定)を導入して、ユーザーの利便性を高めることが、世界的な競争力を持つコンテンツ産業が日本から生まれる土壌となる。

上述の通り、日本が新たな経済成長の原動力を創出し、国際競争力を強化して、期待成長率を高めるには、「スピード向上」、「国際化への対応」、そして、「インターネット時代への対応」が不可欠である。そのためにも、ベンチャー・中小企業・大学などで、知的財産の重要性を認識させることが重要になろう。

今後は、知財マネジメントに関する多様な相談を一元的に受け付けられるワンストップ相談窓口の整備、既存の大学知財本部・TLOの再編・強化、公的資金による研究成果(論文および科学データ)のオープンアクセスの確保
などを通して、「知財」に対する意識を高めることが重要になろう。

日本の優れた技術やコンテンツに相応しい、スピーディな特許制度、国際化やインターネット時代に適した政府や企業の変化適応努力を期待したい。これからの世界はますます、知財(頭脳)の勝負になるであろう。日本の知財面での国際競争力を高くして、この激動の時代で栄え続ける国でありたいものである。そのためには、頭脳を磨き、守り、世界の最先端に躍り出るとの意識改革とこれを支える知財戦略・制度が重要になる。

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コメント(2)

  • 拝見させて頂きました。

    「特許の審査手続きの迅速化・効率化、審査請求制度の廃止を」については、少々疑問を感じます。
    仰る通り、日本の特許出願は、数は多いがモノにならないと言われております。とりあえず出願する、という戦略を取ることも多々あります。
    しかし、審査のスピード化、更には審査制度を廃止したからといってモノになる特許が増えるのかというと、そうとは言い切れません。
    時代に合わせた法改正が必要とのご意見も分かりますが、重要なのは如何に動かすか、すなわち如何に知財戦略を立て、知財を取得し、市場化していくのかです。
    日本では、この流れがスムーズではないと感じます。産・官・学間の連携がうまく行われていないのです。
    産業界において知財が重要といくら叫ばれていても、官・学には届いていません。
    知財を生み出す最重要ポジションである「学」では、現制度では人材が育ちません。運転資金もありません。

    特許制度の問題以上に多くの課題が山積しています。

    投稿者: 匿名希望

  • 日本におきましては、確かにスピードアップが必要かもしれません。


    しかしながら、これからは世界が相手でございますので、日本が関わる部分は現行制度でも問題ないかもしれません。

    すなわち、
    1)日本に出願
    2)1年以内に必要に応じて国内優先権主張を行う
    3)外国出願→権利化

    3)まで工程が進めば、権利化は外国での審査になります。以上はパリ条約に基づく直接外国出願でして、PCTルートは異なります。


    私は、弁理士の能力向上が一番大切かと思います。

    大手の企業は問題無いのでしょうが、中小企業となりますと、適切な特許戦略アドバイスが得られないことが多々あります。

    明細書作成から出願までの戦略における有能なアドバイザー(弁理士)の育成強化を望みます。

    投稿者: 星野毅

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